川を守り、未来へつなぐ――フィッシュパスが挑む水産DXと生物多様性の最前線
株式会社フィッシュパス 代表取締役 西村 成弘氏
株式会社フィッシュパスは、漁業・水産業分野において、漁業協同組合と釣り人をつなぐデジタルサービスを展開する企業です。紙の遊漁券をアプリ上で購入できる仕組みの提供をはじめ、環境DNA技術を活用した生物多様性の可視化にも取り組み、河川環境と水産資源の持続可能性に貢献しています。本記事では、代表の西村成弘氏に、現在の取り組みや経営の考え方、今後の展望などについて詳しく伺いました。
河川と釣り人をつなぐデジタルプラットフォーム
――現在の事業内容について教えてください。
当社では、一次産業のなかでも漁業・水産業領域に特化し、全国の河川を管理する漁業協同組合と釣り人をつなぐ「フィッシュパス」というアプリケーションサービスを展開しています。
川で釣りをする際には、従来は紙の遊漁券を現地で購入する必要がありましたが、それをデジタル化し、スマートフォン上で購入できるようにしました。これにより、釣り人にとっては利便性が向上し、漁業協同組合にとっても管理の効率化につながっています。
単にデジタル化するだけでなく、利用状況のデータが蓄積されることは、今後の資源管理や運営の改善にも役立てられると考えています。
――ほかにも取り組まれている事業はありますか。
もう一つの大きな柱が、「環境DNA」を活用した事業です。これは、水を一杯採取するだけで、そのなかに含まれるDNA情報から生息している生物の種類や量を把握できる技術です。従来のように、実際に捕獲したり、目視で確認したりする必要がないため、効率的かつ網羅的に調査できるのが特徴です。
この技術は、生物多様性の把握や、環境保全において非常に有効です。河川や海の状態を定量的に把握することで、より科学的な資源管理や保全活動につなげることができます。フィッシュパスのサービスと組み合わせることで、人の活動と自然環境の両面からアプローチできる点が強みだと考えています。
原体験から生まれた課題意識
――現在の事業を立ち上げた経緯をお聞かせください。
30代の後半あたりに、子どものころ祖父と釣りをしていた故郷の川を訪れたことがきっかけです。以前は魚が多く泳ぎ、飛び込めるほどの深さがあった川でしたが、久しぶりに見たその場所は大きく変わっていました。山の荒廃によって土砂が流れ込み、川底が浅くなり、魚の生息環境が失われていたのです。
その光景を目の当たりにして、「なぜこうなってしまったのか」という疑問が強く湧き、地元の大学院で研究を進めました。そしてそのなかでわかったのが、この問題は自分の故郷だけではなく、全国各地で起きている共通の課題であることです。
この課題に対して自分なりに何かできないかと考えたときに、当時注目されていたスマート水産業や、DXの考え方に可能性を感じました。デジタル技術を活用すれば、これまで難しかった管理や可視化ができるのではないか――そうした発想から、現在の事業に取り組むようになりました。
「本物」と「正直」を貫く経営観
――会社の理念やビジョンについて教えてください。
ミッションとして掲げているのは、「川を守り、未来へつなぐ」ことです。これは単に現状を維持するということではなく、次の世代にしっかりと引き継いでいくという意味を込めています。
ビジョンとしては、持続可能な水産資源と、生物多様性を意識した社会の実現を目指しています。人間の活動と自然環境は、切り離せるものではありません。その両方がバランスよく成り立つ社会を実現することが、私たちの目指す姿です。
――経営において大切にしている価値観は何でしょうか。
「ちゃんとする」ということです。言葉としてはシンプルですが、そのなかには「本物であること」「正直であること」といった意味が含まれています。
本物の商品やサービスを提供すること、誠実に仕事に向き合うこと――私は、それを当たり前に続けていくことが重要だと考えています。派手さはないかもしれませんが、そうした姿勢が結果として信頼につながり、長く続く事業になると思っています。逆に言えば、そこがぶれてしまうと、どんなによい仕組みを作っても意味がないと感じています。
組織はフェーズに応じて変化させる
――組織運営で意識していることを教えてください。
組織は固定されたものではなく、事業の成長フェーズに応じて変えていく必要があるものです。そのため、現在も組織体制については試行錯誤を続けており、その時々の課題や状況に応じて、方針や体制を柔軟に見直していくことが重要だと考えています。
最初から正解があるわけではないため、実践しながら改善していくしかありません。そうした意味では、変化を前提とした組織運営を意識しています。
――採用で重視しているポイントは何でしょうか。
スキルや経験ももちろん大切ですが、それ以上に重視しているのは、「ちゃんとしている人」であるかどうかです。本物志向で、正直に物事に向き合える人かどうかという点を見ています。
採用の段階では、その人の将来の能力や成長を正確に見極めることは難しいと感じています。そのなかで判断軸になるのは、その人が持っている根本的な考え方や姿勢です。そこがしっかりしている人であれば、一緒に働いていく中で力を発揮してくれるのではないかと考えています。
国内から海外へ――水課題の解決に挑む
――今後の展望についてお聞かせください。
現在掲げているビジョンの実現に向けて、今後は海外展開も視野に入れています。日本の河川はさまざまな課題を経験し、何度もそれを乗り越えてきました。その過程で培われたノウハウや技術は、ほかの地域でも活かせる可能性があると考えています。
特にアジア地域では、水に関する問題が非常に大きな社会課題となっています。洪水や水の問題など、日本がかつて直面し解決してきた課題と共通する部分も多くある地域に対して、日本発の技術や知見を提供していくことには大きな意義があると感じています。
――今後の課題についてはどのようにお考えですか。
事業が拡大していくなかで大きな課題になってくるのは、人材の確保についてでしょう。当社は地方に拠点を置いており、人口規模としても限られたエリアにあります。そのなかでどのように人材を集め、組織としての力を高めていくかは重要なテーマです。
今後の成長を支えるためには、多様な人材をどのように巻き込んでいくかが鍵になると考えています。採用のあり方や働き方も含めて、柔軟に検討していくつもりです。