変わり続けながら、おいしさと楽しさを届ける
杉森菓子舗 代表 杉森 修平 氏
和菓子をはじめ、お菓子全般の製造販売を手がける杉森氏。昭和元年に祖父が創業した店は、今年で100年を迎えます。父の代を経て、現在は3代目である杉森氏へと受け継がれました。能登半島地震では大きな被害を受けながらも、日々の仕事と向き合い続ける杉森氏に、お店づくりや商品づくり、ビジョン、休日の過ごし方までお話を伺いました。
100年続く菓子店として、いま大切にしていること
――現在の事業内容について教えてください。
和菓子を中心に、お菓子全般の製造販売をしています。創業は昭和元年で、祖父が立ち上げました。今年で100年になります。私は3代目です。
始まりは、祖父が地元で何か商売をしたいと考えたことでした。当時は甘いものが少ない時代で、「お菓子なら商売になるのではないか」という話から始まったと聞いています。石川県内でも数台しかなかったようなアイスキャンディの機械を買ってきて販売したところ、とても人気が出たそうです。その機械は家が一軒建つほどの値段だったとも聞いています。
父の代は、人口も多く、冠婚葬祭の仕事も多かったので、本当に忙しかったようです。私の代になった現在は、嗜好品としてお客様一人ひとりに向き合っていく必要がより強くなっていると感じています。
――お店づくりや商品づくりで意識していることはありますか。
店に来たら、何か面白いことがあったり、面白いものがあったりするといいなと思っています。ひとひねり、ふたひねりあるものや、他にはないようなことをやりたいという気持ちがあります。
強みと言われると難しいですが、自分の性質として、ひとつのことを突き詰めるタイプだと思っています。新商品を作るところまでは楽しいのですが、その後のルーティンや生産は従業員さんに任せながら、私は新しいものを作ったり、どら焼きや既存の商品をより深く掘っていったりすることに面白さを感じています。
周りからは「いろいろやっている」「アイデアマン」と言われることもありますが、自分としては楽しいことをやっているだけという感覚です。
――理念やビジョンとして大切にしていることは何でしょうか。
値段と品質のバランスは大切にしています。品質を上げようと思えば、今以上に上げることはできます。ただ、原価を倍かけたとしても、味の違いがわずかであれば、お客様がその価格を払う理由がないと思っています。だからこそ、良いバランスを見なければいけません。
よく「こだわり」と言いますが、こだわりは前面に出すものではなく、放っておいてもついてくるものだと思っています。自分では特別にこだわっているつもりはなくても、人から言われて初めて気づくこともあります。
経営としては、もっとやらなければならない課題があると感じていますが、自分が熱中できることに向き合いながら続けています。
「表現者」と気づいたことで、仕事が楽しくなった
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
もともと「菓子屋になるぞ」と強く思っていたわけではありません。父の代がとても忙しかったこともあり、流れの中で「やるものなのかな」「やった方がいいのかな」と疑問を抱きながら進んできたように感じています。
東京の方で6年ほどお菓子に関わる仕事をして、その後戻ってきました。技術はありましたが、父もまだ元気でしたし、最初から前向きに仕事に取り組んでいたわけではありません。与えられた仕事をこなすような感覚でした。
ただ、ある時、本を読んでいて、自分は「表現者」なのだと気づきました。商品に名前をつけること、値段を決めること、内容を考えること、店頭のポップを決めること。それらはすべて、外に向けて表現することと同じだと思ったんです。
――その気づきで、仕事への向き合い方は変わりましたか。
変わりました。それまでは、スポーツ選手のような人たちを見て「かっこいいな」と思っていました。でも、そういう人たちも表現者です。規模は小さいかもしれませんが、自分も同じように表現しているのだと思えたことで、急に目が開けたような感覚がありました。
「これをこう変えたら、こう見せられるのではないか」と考えるようになり、仕事がとても楽しくなりました。この仕事は、すごく楽しい仕事なのだと思えるようになったことは大きかったです。
――経営判断の軸にしている価値観はありますか。
恥ずかしいことはしたくない、という想いはあります。それに加えて、判断の基準としては「楽しいか、楽しくないか」が大きいです。
経営判断では、楽な方と厳しい方があれば厳しい方を選んだ方がいい、という考え方もあります。でも私は、たとえぬるくても、楽しい方を選びます。
みんながみんな厳しい方を選べるわけではないと思いますし、それで成功するかどうかが決まるわけでもないと思っています。自分が楽しいと思えるかどうかは、大事な軸になっています。
無理なく、効率よく、次の着地を考える
――今後取り組んでいきたいことや、展望について教えてください。
私も58歳になり、今のところ後継者はいません。最終的にどのような着地をするかが、まず一番大きなことだと思っています。
お菓子として新しいことは、これまでもずっとやってきましたし、これからも無理のない程度に続けていきたいです。ただ、40代の頃に比べると体力は落ちてきています。だからこそ、無理がなく、なおかつ効率的な形を考えていかなければ、これからは難しいと感じています。
都会のように新しい人がどんどん入って、また抜けていくような環境ではありません。味や品質はもちろん大切にしながらも、効率のことも考えていく必要があります。
――経営の中で、これだけは譲れないという想いはありますか。
基本的には、すべて変わっていくものだと思っています。現状を変えることに、こだわりはありません。変わっていかなければいけないものもありますし、変わらざるを得ないこともあります。そのあたりは柔軟でいたいです。
ただ、守るべきところはシンプルです。お客様に嘘をつかないこと。おいしいものを提供すること。そこはもちろん守ります。それ以外のことは、うまく変わっていければいいと思っています。
仕事から少し離れ、違うものに集中する時間
――お休みの日のリフレッシュ方法を教えてください。
家にいることが多いです。家が好きなんです。ただ、何もしていないと、つい仕事のことを考えてしまいます。だから、できるだけ違うものに集中するようにしています。映画を見たり、本を読んだりして、仕事とは別のことに意識を向けるようにしています。
今は子どもたちも家を離れています。上の子は働き始めていて、下の子は大阪の大学に通っています。子どもが家にいなくなったことで、妻と新鮮な気持ちでドライブに行ったり、「あそこに行ってみようか」と出かけたりすることもあります。
以前は子どもの迎えや行事があり、時間を気にすることが多くありました。今は、居酒屋に行って近くに泊まったり、ライブに行って帰りにラーメンを食べて帰ったりすることもできます。そういう時間を、楽しく過ごしています。