グラブは“選ぶ時間”にも価値がある――スポーツショップ古内が目指す「一本桜」の経営
株式会社スポーツショップ古内 代表取締役社長 古内克弥氏
株式会社スポーツショップ古内は、野球専門店「GLOVEHOUSE」を軸に、スポーツ用品販売や学校向け外商、地域スポーツ支援などを展開する企業です。グラブを単なる商品ではなく、選ぶ時間やその後の野球人生まで含めて提案する姿勢を大切にしています。本記事では、古内氏に事業へのこだわりや組織づくり、経営に込める想い、そして今後の展望について伺いました。
目次
グラブに込められた職人の想いを届ける野球専門店
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
当社は野球専門店としてスポーツ用品の販売を行っており、中でもグラブのラインナップの豊富さが大きな特徴です。
店舗では野球用品を中心に扱いながら、学校向けの外商事業にも力を入れてきました。部活動で使用するユニフォームの納品や、学校体育で必要となる備品の手配など、店頭販売だけではない形で地域のスポーツ環境を支えています。
さらに、小学生向けのバドミントンクラブの運営や、「スポカル」というイベントへの協力も事業のひとつです。クラブ運営では自分たちが受け皿を作り、指導は専門のコーチにお願いする形を取っています。
商品を販売して終わりではなく、子どもたちがスポーツに触れる機会や、学校・地域の活動を支える場づくりも大切にしています。
――御社ならではの強みやこだわりはどのような点にありますか?
前職ではスポーツ総合卸で働き、グラブ工場での勤務も経験しました。その中で、職人たちが込めた想いをもっとお客様へ届けたいと考えるようになったんです。
前職時代、営業で訪問したスポーツショップでは、高価なグラブが重ねて陳列されている場面も多く見てきました。ただ、重ねれば形も変わりますし、色移りも起きる。何より、職人が丁寧につくったものが雑に見えてしまうことに違和感がありました。
自分のお店ではグラブを重ねて陳列することは絶対にしないで、一つ一つを綺麗に並べることを心がけました。
ある時、お客様から「こうしてグラブを手にはめて買えるのが幸せだ」と言われたことがあって。その言葉を聞いた時に、グラブはネットで買うだけではなく、実際に触れて選ぶ価値があると改めて感じました。
だからこそ、職人の想いも含めて説明しながら販売できる店にしたいと思っています。
「親孝行」が原点となった事業承継への想い
――家業を継ごうと思ったきっかけを教えてください。
小学5年生の時、父から「サッカーのセールを手伝いなさい」と言われたのが最初のきっかけでした。売り場に立って接客をしていると、お客様から「ありがとう」と声をかけてもらえて、その時間が本当に楽しかったんです。気づけば8時間があっという間に過ぎていました。
もともと祖母から「親孝行をしなさい」「世の中のお役に立てる人になりなさい」と言われて育ったことも、自分の中では大きかったと思います。両親がお金のことで悩んでいる姿を見て、小学生ながら「親を楽にさせたい」と考えていました。
当時はJリーガーになればお金持ちになれると思ってサッカー選手を目指していましたが、お店を手伝った時に「自分にはこっちの方が向いている」と感じたんですよね。
家業を継ぐことも親孝行の形なんだと思うようになりました。
――経営をする上で大切にしている考え方を教えてください。
この会社は父の代から続いていて、長年積み重ねてきた地域との信頼があります。
今では、おじいちゃんになっても息子さんやお孫さんのために来店してくださるお客様もいるんです。だからこそ、前の世代を尊重しながら、その価値を次の世代へどう繋いでいくかを大切にしています。
自分の息子はまだ7歳ですが、将来的に誰かが「この店を継ぎたい」と思ってくれるような存在にはしたいですね。
尊重し合える組織づくりと独自の人材育成
――スタッフとのコミュニケーションで意識していることは何ですか?
一番大事にしているのは「尊重すること」です。私の中では「悪口を言わない」というのが大きなポリシーでもあります。
スポーツ経験も、その考え方に影響していると思います。サッカーもバレーボールも、仲間同士でカバーし合う競技でした。だから、スタッフに対しても「失敗しても自分がフォローするから大丈夫」という立場でいたいと考えています。
最近では、水曜日の営業時間を短縮して、読書会やランチミーティングの時間を設けるようにしました。読書後には感想をシェアするのですが、どんな意見も否定せず、「そういう考え方もいいね」と受け止めるようにしています。
その人が何を大事にしているのかを知る機会になりますし、相手を認めやすい空気も生まれる。営業時間を削ってでも、やる価値は大きいと感じています。
――採用や育成ではどのようなことを重視していますか?
夢や目標を考えられる人と一緒に働きたいと思っています。自分自身が普段から夢や目標について話すので、それを前向きに受け止められる人が合うのかなと思います。
採用では、面接後に5回のインターンシップと、5冊以上の読書感想文を書いてもらっています。感想文では、自分の考えを文章にできるかを見ていますし、期限を設けることで納期意識も確認しています。
どんなに良い人でも、期限を守れなければ採用はしません。社会人として約束を守れることは、とても大切だと思っています。
接客の時間を守るためのAI活用と未来への挑戦
――今後取り組みたいことや挑戦していきたいことを教えてください。
今はAI活用にかなり力を入れています。目的は効率化ですが、本当に大切にしたいのは、お客様と丁寧に接する時間を増やすことなんです。
忙しさに追われてしまうと、ハガキを書く時間や納品準備にも余裕がなくなってしまいます。だからこそ、人間がやらなくてもいい仕事はAIに任せて、接客や気遣いに時間を使える環境を整えたいと思っています。
――休日のリフレッシュ方法はありますか?
最近は朝に神社まで散歩するのが日課になっています。川の音や鳥の声を聞きながら歩き、お参りをして帰る。その時間がすごく心を整えてくれるんです。
あとは、夫婦でカフェに行ったり買い物をしたりする時間も大切にしています。土日が忙しい分、平日にゆっくり過ごせるのはありがたいですね。
“一本桜”を目指して守り続ける理念
――ショップ運営におけるポリシーを教えてください。
「悪口を言わない」「敵を作らない」「相手を尊重する」。この3つはずっと大切にしています。
経営理念としても、「お店はお客様のためにある」「損得より善悪で判断する」「青少年の育成に寄与する」という考えを掲げています。
最近はスタッフに「うちの会社は一本桜だ」と何度も伝えています。魅力ある一本桜には、人が自然と集まりますよね。そして、来てくれた人が「また来たい」と思えば、新しい人を連れてきてくれる。
私たちは、その桜を守る存在です。毎日の掃除やグラブのブラッシングも、桜を綺麗に保つための大切な仕事だと思っています。
――最後に、読者へメッセージをお願いします。
人を尊重することを大切にしてほしいですね。経営者仲間を見ていても、「実るほど、頭を垂れる稲穂かな」という言葉のように、本当に実っている人ほど、周囲に感謝を伝えていると感じます。
人それぞれ歩んできた歴史は違いますが、みんな自分の人生の主人公なんですよね。だから、「そういう生き方もいいね」と認め合えればいいと思っています。