一方通行ではない、共に育み合う新しい学び屋の挑戦
一般社団法人熊本夢学舎 代表 藤木 清也氏
子どもたちを取り巻く環境が急激に変化する現代において、不登校や発達特性、家庭環境による困難を抱える子どもたちの数は増加の一途をたどっています。従来の「答えのある問い」を解く一方通行の教育だけでは、これからの時代を能動的に生き抜く力を育むことは難しいのかもしれません。教育の質を守るために立ち上がり、企業の福利厚生を巻き込んだ画期的な不登校支援ビジネスモデルを見据える藤木氏に、現在の取り組み、独自の組織論、そして日本の未来を変える壮大なビジョンについてお話を伺いました。
目次
「共育」の精神で、困難を抱える子どもたちに安心の居場所を
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
私たちは現在、大きく分けて5つの事業に取り組んでいます。具体的には、「フリースクール事業」「通信制高校のサポート校事業」「放課後の居場所づくり」「自習教室の運営」、そして「子ども食堂」の5つです。
私たちの最大の特徴であり他社にはない強みは、教育機関でありながら「福祉に深く寄り添ったサービス」を重視している点にあります。私たちの塾やスクールには、不登校のお子様はもちろん、経済的・家庭的な困難を抱えているお子様、あるいはADHDやASDといった発達特性を持つお子様が多く集まります。
専門知識を持ったスタッフが、お子様一人ひとりの特性や環境に応じ、日々の生活支援から学習支援までを一貫して行っています。学習塾や一般的なフリースクールの枠を超え、福祉の視点からアプローチできることが私たちの大きな強みです。
――ホームページに掲げられている理念にはどのような思いが込められているのでしょうか。
私たちが最も大切にしているのは、教育の「教」の字を「教える」ではなく、「共に育む」という漢字で表す「共育」の精神です。
一般的な教育は、どうしても教員から子どもへという一方通行になりがちですが私たちは、教職員も子どもたちから学ぶことがたくさんあると考えています。大人が人生経験や学習面をサポートする一方で、私たちも子どもたちから多くの気づきを得る。そうして互いに成長し合える関係が理想です。
近年、痛ましい児童虐待や、教育関係者による子どもへの不祥事が後を絶ちませんが、これらの根底には「子どもを見くびっている」という大人の意識があるのではないでしょうか。子どもの尊厳を認め、彼らが持つ無限の才能をいかに引き延ばしていくか。それこそがこれからの教育のあるべき姿だと信じています。
ボランティア、戦略、財務の経験を経て、教育の本質を追究するための起業
――経営者になられた経緯を教えてください。
もともと私は銀行員として勤務していました。ただ、学生時代から「いつかは自分でビジネスを起こしたい、独立したい」という強い想いを抱いていました。
その想いの原型を振り返ると、高校時代に所属していた「ボランティア部」での経験に行き着きます。その後、大学時代には一転して体育会のアメリカンフットボール部に身を置き、勝つための「戦略を立てる」という組織論やビジネスの基礎となる思考法を徹底的に学びましたが何かを生み出したいと考えたとき、自分に圧倒的に足りなかったのが「財務の知識」でした。そこで最初のキャリアとして地方銀行を選びました。
コロナ禍以降、若い世代の中に「自ら深く考えること」が苦手な人が増えているのではないかと違和感を覚えるようになりました。指示を待つ受動的な人材ではなく、主体的に行動できる人材を育てるために、やはり教育の現場から変えていかなければならない。
このままでは、いま目の前にいる子どもたちの安全や未来を守ることもできませんし、自分が理想とする「本質の教育」を届けることもできないと考え、仲間と共に現在の一般社団法人熊本夢学舎を設立しました。
――藤木代表が判断の軸にされている価値観や心情は何ですか。
自分の考えが「常に正しい」とは思わず固執しないことを強く意識しています。
今の時代は、社会情勢も人々の価値観も刻一刻と流動的に変化しています。これからの時代に組織を伸ばしていくためには、「責任は経営者が取るが、決定事項は社員全員で話し合って決める」というスタイルがベストだと考えています。
スタッフから提案があったとき、たとえそれが予算やリソースの関係ですぐに実現できないことだったとしても、頭ごなしに全面否定することは絶対にしません。全員で一緒に考え、お互いの価値観を共有しながら、一歩一歩組織の意思を形成していくことを軸にしています。
フラットな「コミュニティ」が子どもたちの安心感を生み出す
――組織運営で意識していることを教えてください。
日頃の業務中の何気ない雑談やコミュニケーションの中に、報告や共有の仕組みを深く組み込んでいます。どんなに小さなことでも気軽に発信し合える環境を作っています。
実は、このスタッフ同士のギスギスしていない、風通しの良いアットホームな雰囲気というのは、子どもたちにダイレクトに伝わるものなのです。
――今後、どのような人と一緒に働きたいとお考えでしょうか。
これからの採用や育成において、私は「何でも平均的にこなせる万能プレイヤー」は必要としていません。それよりも、何か「一つのことを極めている専門家」に来ていただきたい、あるいはそういう尖った人材に育ってほしいと考えています。
企業の福利厚生と国策を巻き込む不登校支援の未来
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
私たちは現在、短期的な目標として「福利厚生型チケット」という新しいビジネスモデルの構築を進めています。
これは、地元の企業様に、自社の従業員向けの福利厚生として利用できる当スクールの「支援チケット」を買い取っていただくというシステムです。この仕組みの最大の狙いは、潜在的な子どもの救済だけでなく、「企業や経営者の社会認識を変えること」にあり、気づくきっかけになります。
実は現在、子どもの不登校やケアのために「介護休暇」を取得することが法的に認められています。しかし、この事実を知っている経営者や労働者は日本にほとんどいません。私たちの取り組みを通じて社会的な認知を広げることができれば、親御さんが企業の中で堂々と休暇を取得し、前向きな選択ができるようになります。
中期的な目標としては、まずは九州・四国エリアへ、そして最終的には全国へとこの輪を広げていきたいと考えています。
子どもが学校に行けなくなった瞬間に、「じゃあ、あそこのフリースクールや学び屋に行こう」とごく自然に選択できる社会インフラを作りたい。そこまで到達して初めて、私たちの本当のミッションが完了すると考えています。
――経営や活動の中で、これだけは絶対に譲れないという哲学はありますか。
やはり私たちの原点である「子どもリスペクト」という一点に尽きます。これだけは、どんなことがあっても絶対に譲れません。実現に向けて、まずは私たちがその背中を見せ続けていきたいと思っています。
湯の国・熊本の自然に癒やされ、次なる活力へと変える
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
お休みの日はよく温泉に足を運んでいます。