100年近い歴史を受け継ぎ、豚の価値を伝える――株式会社舞豚が挑むブランド豚づくり
株式会社舞豚 代表取締役 中村 臣助氏
株式会社舞豚は、長年にわたり豚の品種改良と種豚供給に携わってきた歴史を持つ企業です。その技術と経験を生かし、現在はブランド豚「舞豚」の生産から販売、飲食店運営まで一貫して手掛けています。代々受け継がれてきた養豚の知識を礎に、一般的な豚肉とは異なる価値を届けたい――。そんな想いを胸に事業を展開する中村臣助氏に、事業へのこだわりや経営観、今後の展望について伺いました。
豚づくりの歴史と、ブランド豚への挑戦
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
当社はもともと種豚を供給するブリーダー事業を中心に行ってきました。曾祖父そうそふの代から豚を扱い始め、私は4代目にあたります。創業のルーツは昭和初期にまでさかのぼり、長年にわたり養豚業に携わってきました。
これまで主な事業は種豚の供給でした。養豚生産者のお客様に種豚を提供し、豚の品種改良や肉質改良に取り組んできた歴史があります。一時期は県内で多くのお客様に利用していただいていた時期もありました。
しかし、農業全体で後継者不足や高齢化が進み、お客様の数も年々減少していきました。このままでは従来の事業だけでは難しくなると感じるようになったんです。そこで、長年培ってきた品種改良の技術を生かし、自分たちで特別な豚肉をつくろうと考えました。
その取り組みとして開発したのが、豚の品種にこだわったブランド豚です。品種の掛け合わせにも工夫を重ね、他にはないおいしさを追求してきました。そして2014年からは精肉販売や、その豚肉を提供する飲食店の運営も始めています。
――御社の理念やビジョンにはどのような想いがありますか。
代々豚を育て、その豚によって生かされてきたという感覚があります。だからこそ、国産豚肉の魅力をもっと多くの方に知っていただきたいと思っています。
もちろん価格も大切ですが、それだけではない価値を持った豚肉があることを知ってほしい。その豚肉を食べて笑顔になっていただきたいですし、幸せな時間を過ごしていただきたいんです。
飲食店を始めた理由もそこにあります。実際にお客様から「こんな豚肉は初めて食べた」「おいしかった」という声を直接いただけるのは店舗ならではです。その声を聞くたびに、この仕事を続けていて良かったと感じます。
また、店舗だけでなく通販などを通じて、より多くの方に舞豚の魅力を届けていきたいと考えています。
幼い頃から当たり前だった養豚の世界
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
長男だったこともありますが、それ以上に幼い頃から豚がいる環境で育ったことが大きかったですね。
私は養豚場の建物の中で生活していましたし、家の前にはいつも豚がいました。父や祖父が仕事をしている姿も毎日のように見ていましたので、継ぐか継がないかを考えるというより、「自分もやるものなんだろうな」という感覚だったと思います。
大学も関連する分野に進みましたし、自然な流れでこの仕事に入りました。当時を振り返ると、継がないという選択肢はほとんど頭になかったですね。
――経営判断の軸になっている価値観はありますか。
お客様を第一に考えることです。
私は新しいことを考えるのが好きで、さまざまなアイデアも浮かびます。ただ、それを実際に形にする際には、自分の考えだけで進めるのではなく、お客様や周囲の方々の声をしっかり聞くことを大切にしています。
いただいた意見を頭に入れながら、自分の考えと照らし合わせて判断していく。その積み重ねが経営なのではないかと思っています。
挑戦を後押しする組織づくり
――社内のコミュニケーションで大切にしていることは何でしょうか。
当社は豚の生産から飲食店運営まで行っているため、部署や現場が分かれており、全員が常に同じ場所で働いているわけではありません。
その中でスタッフには、「やってみたいことがあればどんどん挑戦しよう」と伝えています。もちろん相談や報告は必要ですが、まずはチャレンジしてみることが大切だと思っています。
自分で考えて行動することで成長できますし、新しい可能性も広がります。そうした環境づくりを意識しています。
――どのような人と一緒に働きたいと考えていますか。
一言で言えば、「切れる人」です。
頭の回転が速いという意味だけではありません。考える力があり、行動力もあり、さまざまな場面で力を発揮できる人と一緒に仕事をしてみたいですね。
新しいことに挑戦しながら成長していける方に魅力を感じます。
品質を守りながら価値を広げる未来へ
――今後取り組みたい挑戦について教えてください。
まず大切にしたいのは、現在の生産規模を無理に拡大しないことです。
もし大きな反響をいただいて注文が増えたとしても、生産量だけを追い求めるつもりはありません。品質を維持するためには技術も必要ですし、私たちが積み上げてきた付加価値を守ることが重要だと考えています。
その一方で、生産者の想いを直接伝えられる場所は増やしていきたいですね。現在は地元で私自身が飲食店を運営し、東京・六本木では妹が舞豚専門のしゃぶしゃぶ店を運営しています。
店舗では生産現場の話や豚づくりへの想いを直接お客様へ伝えることができます。そうした場は今後も広げていきたいと考えています。通販や他の飲食店で食べていただく機会も大切ですが、自分たちの言葉で価値を伝えられる場所には特別な意味があります。
――現在向き合っている課題について教えてください。
豚肉は牛肉、特に和牛と比べると、高級品というイメージを持たれにくい部分があります。
そのため、舞豚というブランド豚の価値をどのように伝え、適切な評価をしていただくかが大きな課題です。
本来であれば販売や価値づけはお肉屋さんが担う部分も多いと思います。しかし私たちは生産者でありながら、その価値を伝える取り組みも自ら行っています。
だからこそ、この豚肉の魅力をどう表現し、どう届けるのか。その方法を今も模索し続けています。
柔軟さを大切に、豚とともに歩み続ける
――経営の中で大切にしている考え方を教えてください。
「これだけは譲れない」という強いこだわりよりも、むしろ柔軟に対応することを意識しています。
自分自身、譲ることを考える場面が多いと感じていますし、それが長所でもあり短所でもあると思っています。ただ最近は、自分なりの軸もしっかり持たなければいけないと感じるようになりました。
状況に応じて柔軟に考えながらも、自分自身の考えを磨いていきたいと思っています。
――最後に、休日のリフレッシュ方法を教えてください。
正直なところ、生き物を育てている以上、休みという休みはほとんどありません。
飲食店にも立っていますし、豚たちの世話もあります。家族には負担をかけている部分もあると思いますが、今ではそれが当たり前の生活になっています。リフレッシュのために何か特別なことをするというより、この仕事そのものが日常です。
現在取り組んでいる舞豚というブランド豚は、日本でもわずかな生産者しか手掛けていない品種の掛け合わせです。長年培ってきた経験と技術を生かしながら育てていますので、ぜひその魅力を知っていただきたいと思います。