建築家の視点で、住宅からまちの風景を考える
有限会社岡村泰之建築設計事務所 取締役社長 岡村 泰之 氏
建築の設計を中心に、住宅を主な領域としながら、写真スタジオやウイスキー蒸留所、店舗など多様な建築に携わってきた岡村氏。設計事務所として建物をつくるだけでなく、住宅がまちに与える影響や、建築家として社会にどのように関わるかを大切にしています。資格としての一級建築士にとどまらず、空間デザインや社会的な視点を持って建築に向き合う。その姿勢には、長年の経験の中で培われた確かな考え方があります。現在は、住宅業界を取り巻く環境の変化を受け止めながら、地方も含めた新たな展開を見据え、建築家がまちづくりに関われる可能性を探っています。
建物を設計するだけでなく、まちの価値まで考える
——現在の事業内容について教えてください。
建築の設計を行っています。何でも手がけますが、主な仕事は住宅の設計です。これまでには住宅以外にも、写真スタジオやウイスキー蒸留所、店舗など、さまざまな建築に関わってきました。その中でも、件数として多いのは住宅です。
今は建築業界、特に住宅の着工件数がかなり減っている状況があります。そのため、厳しい環境の中でも対応できる住宅建築を意識しています。単に建物を設計するだけではなく、限られた条件の中でどう価値を出すかを考えることが重要になっていると感じています。
以前は、比較的ラジカルな姿勢で「無駄があってもいい」という考えのもと設計をしていましたが、30代半ばごろから方向転換しました。住宅は街の中に数多く建つため、一棟ずつの設計を通じてまちに貢献できるのではないかと考えるようになったのです。
五、六棟ほどの現場を複数の建築家で担当する取り組みでは、建売住宅であっても、建築家がまち並みや空間を考えながら関わることで、まちを良くできると実感しました。実際に、建築中の住宅を見た方が次の計画に関心を持ち、完成前に購入が決まることもありました。
資格ではなく、建築家として仕事をする
——理念やビジョンには、どのような思いが込められていますか。
設計事務所では、一級建築士の資格を持っていることが前提になることが多いと思います。ただ、一級建築士を持っていることと、建築家であることは同じではありません。
建築家としてのスタンスを取るというのは、空間デザインの視点や、社会に対するアプローチを建築で行うという考え方を持つことだと思っています。
日本では一級建築士という制度の中で、資格があればあらゆる建物を設計できる仕組みになっていますが、それはデザインとは別の話です。資格試験にも学科と製図はありますが、デザインそのものとは直接関係がありません。
もちろん資格は大切ですが、一級建築士としてだけではなく、建築家として仕事をすること。それが、私たちの設計事務所の特徴です。
——経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
アトリエ系の設計事務所というのは、大学などでデザイン的な建築を学んだ人が、建築家が運営する設計事務所で何年か修行し、そこから独立するという流れがありました。私もその流れの中で、アトリエ系の事務所で修行し、28歳で自分の事務所を立ち上げました。
独立した当時は、バブル崩壊直後でしたが、まだその名残りもあり、リゾート開発の企画提案などに関わる機会がありました。海外から来た建築家のコーディネートに関わることもありましたし、企画的な仕事に携わることもありました。
一方で、独立して最初のころは親戚や知人から住宅の設計を依頼されることが多く、住宅や小さな建物の設計から始まりました。
その後しばらく仕事が少なくなる時期もありましたが、インターネットが普及し始めたころにいち早くホームページを立ち上げたことで、東京から離れた場所の物件や、東京都内で建物を建てるような仕事につながりました。インターネットに助けられた部分は大きかったと思います。
無理に仕事にせず、合う相手と誠実に向き合う
——経営判断の基準にしている考え方はありますか。
まずはクライアントの方とお会いして、方向性が合っているかを話しながら見ています。一度お会いしたときに、私がやるよりも別の方が合っているのではないかと感じる場合には、無理に自分の仕事にしようとはしません。
住宅の設計では、考え方が合わないまま進めると、いろいろな場面で齟齬が生じてしまいます。そうしたことは避けたいと考えています。
工務店さんとの関係でも、相手が何を目指しているかを見ています。社長の理念が自分の考え方に合うか、嘘をつかないか、何かあったときに逃げずに話し合いで解決できるか。そういったことを大切にしています。
建築の世界では、工務店の社長同士を知り合いにさせない方がいいと言われることもあります。しかし私は、気が合い、信頼できる人たちであれば、つながっていてもいいと考えています。
今付き合っている工務店の社長たちは知り合いで、手が足りないときには融通し合うような関係もあります。信用できる仲間たちと仕事をするというスタンスで、これまで続けてきました。
——組織運営で大切にしていることは何ですか。
自分自身が経験を積み、独立して事務所をつくってきたという感覚があります。そのため、すべてをトップダウンで決めるのではなく、ある程度一緒に考え、いいものであればそれで進めようという姿勢を大切にしてきました。
事務所を始めてから十数年ほどは、来てくれた人たちがしっかり仕事をして、その後独立したり、大学の先生になったりすることもありました。
後半になると、優秀な人がアトリエ系の事務所にあまり来なくなっている状況もあり、どう対応すればいいか悩むこともありました。結果的にトップダウンで決めなければならないことが増えた部分もあります。
それでも原則としては、自分のあたまで考えられる人と仕事をしたいと思っています。自分で考え、組み立て、私と対等に話をしながら、クライアントのためになる建築をつくっていく姿勢を大切にしています。
日本全国の工務店とつながり、建築家の知恵を生かす
——今後、挑戦していきたいことを教えてください。
現在、仲間の建築家と一緒に、ウェブを媒介として日本全国の工務店さんとつながり、建築家が持っている知恵をうまく利用して、より良いデザインを提供していくプロジェクトを進めています。
その中で、私自身は、先ほどお話ししたような五、六棟の現場がある場合に参加し、まち並みや空間を考えながら提案できる仕組みをつくっていきたいと考えています。
——リフレッシュ方法について教えてください。
テニスをしています。テニスを始めてよかったのは、仲間ができ、公園のコートで何人かと一緒にプレーする中で、仕事とは異なる人間関係ができたことです。
仕事とは別の人間関係の中に身を置けることは、大きなリフレッシュになっています。テニスが終わったあとに飲んだり、ワインを楽しんだりすることもあります。
また、散歩も好きです。考えごとをしながら歩くこともありますし、何も考えずに歩くこともあります。散歩先で公園のベンチに座るような時間もあります。
読書も日常の中にあります。本がないと、電車に乗るときに少し不安になるタイプです。いつも新しい本を何冊か手元に置いていて、読み終わったら次に読むものがある状態にしています。