日本の木彫りを世界へ――伝統の技と物語を未来につなぐ挑戦
株式会社SUI-RYU 代表取締役 近藤 幹大氏
株式会社SUI-RYUは、伝統的な木彫りの技術を生かした商品開発と、「和」をテーマにした教育コミュニティの運営に取り組んでいます。神社仏閣の装飾や修繕に携わる職人の技術を、国内ではオーダーメイドの高級神棚、海外では家具やアートとして発信。職人が技術を生業として次世代へつないでいける環境づくりを目指しています。代表の近藤幹大氏に、事業に込めた思いや強み、世界を見据えた今後の展望について伺いました。
目次
職人の技術と物語に価値を与える
――現在、力を入れている事業について教えてください。
現在は、伝統的な木彫りの事業と、「和」の教育コミュニティの2つに力を入れています。
木彫りの事業では、神社や仏閣の本殿などに施されている龍や鳳凰、花といった装飾を手がける職人の技術を生かしています。職人が持つ技術や歴史、背景にある物語をブランディングし、国内では経営者の方に向けてオーダーメイドの神棚を制作しています。海外では、高級家具やアート、建築装飾として展開するための準備を進めています。
神社仏閣の修繕に携わる職人の中には、後継者や仕事の減少に悩む方もいます。私は、『職人が職人業を生業として生きる』世界をつくりたいと考えています。そのために、職人の技術に見合う販売価格を設定し、ブランディングから営業・販売、海外とのコネクションづくりを私たちが担っています。
――他社にはない強みは、どのような点にありますか。
私たちは、既存の市場にある商品を売るのではなく、新しい価値をつくっています。神棚自体はさまざまな価格帯やデザインの商品がありますが、私たちが目指しているのは、単に神棚を販売することではありません。
職人の技術や歴史を伝え、適正な対価を支払い、伝統産業の継続につなげることまで含めて事業を設計しています。職人の原価を上げるためには、商品の販売価格と価値を高めなければなりません。その価値をつくり、伝えていくことが私たちの役割です。
経営者のルーツからつくる高級神棚
――高級神棚ブランドについて教えてください。
当社では、高級神棚ブランド「巫-KANNAGI-(かんなぎ)」と、高級木彫装飾ブランド「楽雁-RAKUGAN-(らくがん)」を展開しています。神棚は基本的に、一つ一つ手作りでオーダーメイド制作しています。
制作の前には、必ずお客様へのヒアリングを行います。経営者の方が商売繁盛を祈願している神社や、生まれた病院、育った地域、現在住んでいる場所、事務所がある場所などを伺い、その方のルーツのある神様やご縁をたどっていきます。
――お客様からは、どのような反応がありますか。
ヒアリングをきっかけに、自分のルーツを振り返ることができたという声をいただきました。例えば、生まれた病院が分からず、久しぶりに親御さんへ連絡したことで、昔の自分や家族について知るきっかけになった方もいます。
神棚をつくることが、自分史を振り返る時間にもなっているのだと気づきました。商品が完成したことだけではなく、家族との会話や、自分が歩んできた道を見つめ直すきっかけになったことを喜んでいただけたのは、非常に印象に残っています。
世界中に日本を愛する人を増やしたい
――会社のビジョンに込めた思いを教えてください。
私たちは、「世界中に日本を愛する人を増やす」ことをビジョンに掲げています。
海外へ行くと、日本人であるというだけで笑顔で迎えてもらい、「日本が好きだ」「日本へ行ってみたい」と言ってもらえる場面が数多くあります。日本のアニメや伝統文化をはじめ、日本という国は世界から愛されていると実感しています。
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
新卒で、コーヒーやお茶のフィルターを扱うメーカーに入社し、約5年間営業を経験しました。その後、ニューヨークでビジネスをしたいという思いから、映像制作の個人事業主として独立しました。
その過程で、自分たちが平和な環境で挑戦できるのは、先人たちが未来へつないできたものがあるからだと気づきました。受け取ったものを次の世代へ渡していく役割が自分にもある。その思いから、日本の伝統産業や精神性を未来につなぐ事業を始めました。
正しい学びを次世代へつなぐ「和」の教育
――「和」の教育コミュニティでは、どのようなことに取り組んでいますか。
経営者や個人事業主を対象に、伝統文化や日本の精神性、国史などを学ぶコミュニティを運営しています。
歴史を表面的になぞるのではなく、「歴史を学ぶ」のではなく「歴史に学ぶ」ことを大切にしています。インターネットやAI、SNSには載っていない、生きた知識や証言を持つ方々から直接学び、仲間達と共にそれを事業や家族、従業員へ伝えていくための場所です。
離れていても、本音で向き合う組織づくり
――社内のコミュニケーションで大切にしていることは何でしょうか。
現在は副代表と事業を進めています。私が海外にいるときでも、基本的にはほぼ毎日電話をしています。
世界を舞台に活動していく以上、物理的な距離や時差があることは当たり前です。それをコミュニケーション不足の言い訳にはしないと決めています。電話やオンライン会議を使い、一緒に話し、一緒に過ごす時間を意識的に増やしています。
仕事の話だけではなく、プライベートなことも含めて本音で話します。嘘をつかず、隠さず、事実を共有する。会社も人がつくるものであり、仕事も最終的には人間関係です。誠実さや義理、感謝を大切にすることが、事業を続けていく土台になると考えています。
海外で実績をつくり、木彫りを地域創生へ
――今後、取り組んでいきたい挑戦を教えてください。
一つの目標として、来年のルーブル美術館(フランス)への出展を考えています。現在は、そのための実績づくりや人脈形成を進めている段階です。
海外では、ニューヨークの現地企業と提携しているほか、フィリピンでは不動産・街づくりに携わる現地大手企業様と業務提携を結びました。マレーシアでは、日本大使館が主催するイベントや、西武百貨店での出展も行いました。
今後は、ウェブメディアや動画、SNSを活用して認知を広げながら、海外での実績を積み重ねていきます。その先には、行政や地域と連携した地方創生も見据えています。
まずは木彫りという一つの領域で、職人の技術をブランディングし、国内外へ届ける仕組みをつくる。このモデルを確立できれば、ほかの伝統産業にも展開できると考えています。
――事業を通じて、どのような未来を残したいですか。
私は、先輩方から「受けた恩は返すのではなく、次へ送れ」と教えていただきました。自分が苦しいときに助けてもらったのであれば、同じように困っている次の人を助ける。それが恩送りだと思っています。
今の自分が挑戦できているのも、先人や周囲の方々が道をつくってくれたからです。だからこそ、私も新しい道を切り開き、これから生まれてくる子どもたちが、平和な日本で自由に挑戦できる環境を残したいと考えています。
日本の木彫りや精神性を世界へ伝え、日本を愛する人を増やす。その活動を通じて、受け取ったバトンを次の世代へつないでいきたいです。