五代続く酒屋を「世界で一つ」の体験へ――量り売りで広げる新たな価値

世界で一つのプレゼント北嶋屋 店主 北嶋 雄氏

明治初期創業の「世界で一つのプレゼント北嶋屋」は、量り売りを軸に、お酒やボトル、ラベルを自由に組み合わせられる独自の酒屋です。昔ながらの販売文化に新しい価値を加え、贈る人まで楽しめる体験を届けています。本記事では、5代目の北嶋氏に、事業の強みや家業を継ぐまでの歩み、家族経営の実情、今後の挑戦について伺いました。

「世界で一つのプレゼント」を形にする酒屋

――現在の事業内容と、お店の強みについて教えてください。

当店は、量り売りを軸にした酒屋です。一番の特徴は、「世界で一つのプレゼント」というコンセプトにあります。お酒に好みのボトルやオリジナルラベルを組み合わせ、その人だけの贈り物を作れるようにしています。

ラベルはお客様自身で作ることも、当店に任せていただくことも可能です。選択肢を多く用意し、受け取る方だけでなく、贈る方にも選ぶ時間を楽しんでもらいたいと考えています。

――生原酒の鮮度を保つために、どのような工夫をしていますか?

当店では、「生の原酒」も扱っています。牛乳でいえば、搾りたてのようなものをイメージしていただけるとわかりやすいと思います。

店内のサーマルタンクは、蔵元がお酒の貯蔵や醸造に使う機械です。この設備によって、生のお酒の鮮度を保っています。

生原酒は冷蔵保存を前提に、基本的に2〜3か月以内に飲んでいただくようお伝えしています。そのため、ボトルの色にこだわりすぎず、好きなデザインを選んでも問題ありません。

五代続く酒屋を継ぎ、時代に合う形へ

――量り売りを始めた背景を教えてください。

量り売りは、昔の酒屋では一般的な販売方法でした。しかし、時代の変化とともに、その文化はほとんどなくなっています。当店では父の代からコンセプトを少しずつ尖らせ、1990年代頃から量り売りを始めました。

背景には、酒販免許の緩和やコンビニ、スーパー、安価な配達サービスの登場があります。普通に仕入れて販売するだけでは経営が難しくなり、専門店として独自性を出す必要がありました。

――家業を継ごうと思ったのは、どのようなきっかけからでしょうか?

幼い頃は父の配達についていき、配達先でお菓子をいただくこともありました。小学生の頃には、何となく自分が継いでみたいと思っていたんです。

中学生になる頃には、酒屋の経営が厳しいことも分かってきました。父から「やめておいたほうがいい」と言われましたが、難しそうだからこそ挑戦したいという気持ちが勝りました。

――お父様の代から受け継いだものを変える際、どのような考え方を判断軸にしていますか?

明確な判断軸は、実はあまりありません。厳しい業界なので、きれいな理念を考える余裕がないというのが正直なところです。

代々引き継いだものや父が作った部分、お酒本来のあり方は大切にしています。ただ、必要であれば全部壊すくらいの気概も必要です。古いか新しいかではなく、良いと思ったことには挑戦しています。

家族4人で支える酒屋の経営

――家族で経営するうえで、どのように役割や意思決定をしていますか?

現在は、私と妻、父、母の4人で運営しています。代表は4代目の父ですが、実質的な経営は私が担っています。

私が20歳で店に入った頃から、父は「老いては子に従え」という姿勢で、多くのことを任せてくれました。相談はしますが、最終的には私が決め、家族で徹底して実行する形です。

――今後、外部から人材を採用する考えはありますか?

今のところ、本格的な採用は考えていません。ただ、瓶を洗うような工場に近い作業もあり、将来人を雇う可能性はあります。

イベントの際には、知人や同級生、先輩、後輩などにアルバイトをお願いしています。採用するなら、しっかり仕事をしてくれる方と働きたいですね。

――仕事から気持ちを切り替える時間はありますか?

趣味というよりライフワークに近いのですが、武道を長く続けています。地元の小学校で教えたり、ワークショップのような形で行ったりもしており、その時間が何も考えずにいられる瞬間です。

子どもが2人いるので、一緒に遊ぶこともあります。ただ、少人数経営のため完全な休日は少なく、常にどこかで仕事をしている感覚ですね。

地元の日常に選ばれる酒屋を目指して

――現在、経営上の課題として感じていることを教えてください。

課題しかないというのが正直なところです。特に、ギフトに特化してきたことで、地元のお客様にとって、誕生日などの特別な機会がなければ来店しにくい店になっていました。

大田区外の東京都内や神奈川、埼玉などから来てくださる方も多い一方、地元のお客様の日常的な利用を増やすことが課題です。

――地元のお客様に利用してもらうため、どのような取り組みを進めていますか?

コロナ禍の前頃から、一般のお酒の量り売りを始めました。一升瓶で仕入れたお酒を180ミリリットルや300ミリリットルに小分けし、少量から購入できるようにしています。

店内では、どのお酒も200円ほどから角打ちのように飲めます。一杯試してから、その日の晩酌用のお酒を決める方も増えてきました。

――口コミや情報発信を、どのように強化していますか?

当店は、有料広告をほとんど利用してきませんでした。購入した方やプレゼントを受け取った方が別の人に話してくださる「リアルな口コミ」が、最も大きな力になっています。

最近はMEO対策も自分で学びながら進めています。量り売りや店内で試せる仕組みはまだ十分に定着していないため、できる範囲で発信を重ねたいです。

OEMと通販で広げる酒屋の可能性

――今後、特に強化したい事業や取り組みは何でしょうか?

現在は、お酒のOEMにも取り組んでいます。飲食店のオリジナル酒を作るほか、酒販免許を持たない企業に向けて、粗品や名刺代わりに配れるノベルティ用のお酒も提案しています。

知人や伝手からの紹介が中心なので、今後はそのつながりを強化したいです。また、楽天で始めた通販も、まだ十分に対応できていないため、さらに整えていきます。

――これから、どのような酒屋を目指していきたいですか?

「世界で一つのプレゼント」というコンセプトのもと、日本で一番、ひいては世界で一番の酒屋を目指しています。売上だけではなく、お客様の満足度や店の面白さで競うなら、一番になれるのではないかという自負があります。

プレゼントは、受け取る人以上に、贈る人がワクワクしていることもあります。お酒やボトル、ラベルを楽しそうに選ぶ姿を見ると、その時間自体に価値があると感じます。そこは、私がプライドを持って取り組んでいる部分です。

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