誰もが音楽を楽しめる入口をつくる――おてがるカリンバ協会が広げるやさしい音の輪
特定非営利活動法人おてがるカリンバ協会 理事長 北村 敏子氏
特定非営利活動法人おてがるカリンバ協会は、やさしい音色を持つ楽器「カリンバ」を、より多くの人が楽しめるよう普及活動を行っている団体です。音楽経験の有無にかかわらず、子どもから高齢者まで、さらには身体的な制約のある人も含めて「できる」に近づける仕組みづくりを進めています。本記事では、理事長の北村敏子氏に、協会の取り組みや立ち上げの経緯、今後の展望などについて伺いました。
音楽が苦手でも楽しめる楽器「カリンバ」への入口に
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
当協会では、カリンバという楽器をできるだけ多くの方に楽しんでいただけるようにするための普及活動を行っています。カリンバはやさしい音色が魅力の楽器ですが、ピアノとは配列が異なるため、一般的な五線譜だけでは取り組みにくい面があります。そこで当協会では、独自の楽譜を作成し、それを使えば誰でも弾けるようになる教本を整えてきました。
単に楽器を紹介するのではなく、「どうしたら弾けるようになるか」を考え続けてきたことが、当協会の活動の核になっています。音楽の専門家だけを対象にしているのではなく、これまで音楽を諦めてきた方や譜面が苦手な方、初めて楽器に触れる方などに向けて、無理なく始められる入口をつくっています。
――おてがるカリンバ協会ならではの強みはどのような点にありますか。
大きな強みは、「できない人」の立場から仕組みを考えていることです。私自身は音楽が好きで、ピアノ経験もありますが、カリンバの専門家ではありません。しかし、だからこそ、カリンバの演奏に対して難しさを感じる方の気持ちに寄り添えると考えています。わからないと言われたときに、その方ができるようになる方法を考え、実際に試しながら形にしてきました。
そういった発想から生まれた当協会独自の教材は、講師にとっても教えやすく、学ぶ側にとっても取り組みやすいものになっています。
偶然の出会いから始まったカリンバとの関わり、独自教材づくりへの挑戦
――カリンバと出会ったきっかけを教えてください。
私はもともとレンタルスペースを運営しており、そこにはギターやピアノ、英会話など、さまざまなカルチャー教室の先生が集まっていました。そのなかで、「カリンバを教えてくれる人はいませんか」と聞かれたのがきっかけです。それまではカリンバという楽器の存在も知らず、「マリンバなら知っているけれど、カリンバって何だろう」と思ったほどでした。
インターネットで調べ、取り寄せて初めて実際に触ってみると、非常に面白い楽器でした。ただ、その当時は楽譜もほとんどないような状態で、「どうやったらみんなが弾けるようになるのか」と試行錯誤を始めました。そこから工夫を重ねながら、独自の楽譜にたどり着いたのです。
――カリンバの魅力はどのような点にあるのでしょうか。
人が集まる場所で紹介すると、ほとんどの方が興味を持ってくださるような楽器です。「これは何ですか」と皆さん手に取ってくださるんです。
価格も比較的手頃で、5,000~6,000円ほどで始められますし、弾き方によってとても優しい音が出ます。そうした点が、多くの人に受け入れられている理由だと思います。
――教材づくりについて教えてください。
最初に本を一冊作ったのですが、それだけでは対応できないと感じて、教材をどんどん増やしてきました。教材があることで、講師の方も教えやすくなります。
一般的な音楽教育では五線譜を使いますが、それは「五線譜が読めること」が前提です。そこで、数字で演奏できる形の楽譜を考えました。数字を見ながら弾けば、ゲームのような感覚で演奏できます。
そうしてできあがった独自の縦書きの楽譜では、音楽をあきらめていた人でも30分ほどで弾けるようになることも珍しくありません。「自分にもできた」という体験は大きな自信につながり、「これができたならほかのこともできるかもしれない」と思えるようで、生活にもよい影響が出てくると多くの方がおっしゃっています。
口コミで広がる協会の活動
――現在の組織体制について教えてください。
講師はおよそ200人ほどいますが、運営に深く関わっているのは、理事長である私と副理事、幹事など数名です。実際に動いているスタッフは5~6人ほどですね。
――活動が広がった理由はどこにあると思いますか。
独自の教材がほかにはない方法であったことが大きいでしょう。さらに、私の周りにはもともと人が集まる環境がありましたので、そこに来てくださる方々に試してもらいながら改良を重ねていきました。そうすると「これいいね」と口コミで広がっていったのです。
カリンバに興味を持った人がインターネットで調べると協会のホームページにたどり着くようになり、そこから講師や生徒が増えていきました。
また、講師同士のつながりも強く、新しく講師になりたいという方がも増えています。そこからまた生徒が広がっていくという流れが生まれており、全体としてはまだまだ広がる可能性を感じています。
カリンバの可能性を福祉の現場へ
――今後の展望について教えてください。
今後は、一般の方向けだけではなく、福祉分野にもカリンバを広げていきたいと思っています。特別支援学級の子どもたちや障害のある方、高齢者施設の利用者など、音楽に触れる機会が限られている方にも届けたいのです。
特に高齢者施設のデイサービスでは、レクリエーションに困っているという声をよく耳にしています。カリンバは軽くて扱いやすく、優しい音色の楽器ですので、病院やベッドの上でも楽しめると思います。
施設で導入していただければ、講師が使い方を指導することもできます。大切なのは「魚を与えるのではなく、釣り方を教える」という考え方です。施設のスタッフの方々が自分たちで活用できるようになれば、継続的な活動につながるでしょう。
カリンバは一人でも楽しめますし、グループで音を重ねるとさらに大きな喜びが生まれます。そうした体験を、これからも多くの人に届けていきたいです。