海を守る挑戦から生まれた新たな価値――ガンガゼウニ事業で描く持続可能な未来
うた丸 森川 純氏
長崎県・五島列島で事業を営む森川純氏は、素潜り漁師としての経験を起点に、海の環境問題と向き合いながら新たなビジネスを立ち上げた人物です。かつてはアワビやサザエを中心に生計を立てていましたが、磯焼けの深刻化により状況は一変しました。そこで着目したのが、大量発生していたガンガゼウニです。本来は駆除対象でしかなかった存在を「食材」として価値化し、環境改善と事業を両立させる取り組みを進めています。本記事では、その背景や想い、そして今後の展望について伺いました。
海の異変が転機となった事業の始まり
――現在の事業内容と、立ち上げの背景を教えてください。
愛媛県から五島列島に移住し、当初は別の仕事をしていましたが、結婚を機に独立し「うた丸」を立ち上げました。最初は素潜りでアワビやサザエを獲る漁を中心に生計を立てていました。しかし、年々「磯焼け」と呼ばれる現象が進み、海藻が減少し、アワビやサザエがほとんど獲れなくなってしまいました。それだけでは生活が成り立たなくなり、何かできないかと考えたのがきっかけです。
その中で、国の補助を受けながらガンガゼウニの駆除活動に関わるようになりました。ただ、駆除して捨てるだけではもったいないと感じ、このウニを食材として活用できないかと考えたことが現在の事業の始まりです。2023年7月頃から本格的に取り組み始め、試行錯誤しながら事業化を進めてきました。
――ガンガゼウニとはどのような存在なのでしょうか。
ガンガゼウニはもともと五島列島では食用とされていない種類で、利用用途も限られていました。そのため長年放置され、大量発生することで海藻を食い荒らし、磯焼けの一因となっていました。温暖化や魚の食害など複合的な要因はありますが、自分が取り組める範囲として、このガンガゼウニに焦点を当てています。
現在はこのウニを新たな食材として販売し、収益を得ながら駆除活動を継続しています。年間を通して事業として成り立つようになり、現在は10名ほどのスタッフとともに取り組んでいます。
地域とともに働くという選択
――組織運営や働き方について教えてください。
現在働いてもらっている方の多くは、すでに引退された高齢の方々です。年金生活の中で家にこもるのではなく、少しでも外に出て人と関わる場をつくれればという思いもあります。働き方は完全に自由で、「来られるときに来て、できる範囲で働く」という形にしています。
都市部では難しいかもしれませんが、この地域だからこそ成り立つ働き方です。無理をさせず、それぞれのペースを尊重することを大切にしています。
――コミュニケーションで意識していることは何でしょうか。
一番大事にしているのは「口を出しすぎないこと」です。作業している方々は人生経験も豊富で、自分よりずっと長く働いてきた方ばかりです。自分のやり方を押し付けるのではなく、その人に合ったやり方でやってもらうことを重視しています。
無理をさせない環境づくりも意識しています。周りに合わせて無理をするのではなく、必要であれば休憩を取るよう声をかける。その程度の関わりに留めることで、安心して働ける場をつくっています。
また、自分自身も「社長」という立場にとらわれず、現場で一緒に働くことを大切にしています。代表であっても同じ目線で仕事をすることで、信頼関係が築けると考えています。
海を再生するという長期的なビジョン
――経営の軸となる考え方について教えてください。
自分の中でのゴールは「豊かな海を取り戻すこと」です。ガンガゼウニを減らして終わりではなく、その先に海藻を再生し、さらにアワビやサザエを放流して、かつてのような海に戻すことが最終目標です。
これは数年で結果が出るものではありません。10年、20年と続けていく必要がある長期的な取り組みです。そのため、目先の利益だけを見るのではなく、継続していくことを何より重視しています。
――今後の展望について教えてください。
現在は海藻を増やすための取り組みとして、ロープに種を付けて育てる実験を始めています。また、ガンガゼウニの商品としての認知も少しずつ広がり、コンテストでの認定やメディア露出なども増えてきました。
今後は国内だけでなく、海外への展開も視野に入れています。すでにイタリアンなどの飲食店との取引もあり、新しい食材としての可能性を感じています。
課題と向き合い続ける理由
――現在感じている課題について教えてください。
一つは、他のウニとの比較です。どうしても一般的に知られているウニと比べられてしまいますが、ガンガゼウニはそもそも種類が異なり、味や特徴も違います。その違いを理解してもらうことが難しいと感じています。
もう一つは、この取り組みをしているのが現状では自分一人だということです。駆除自体は各地で行われていますが、多くは日当目的で、事業として発展させる動きにはなっていません。人手や手間の問題もあり、広がりにくい現状があります。
それでも、自分はこれを事業として続けていきたいと考えています。単なる作業ではなく、価値を生み出す取り組みにしていくことが重要だと思っています。
「食べること」が海を守る力になる
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
この活動は、自分一人では成り立ちません。海を良くするためには、食べてくれる人の存在が不可欠です。ガンガゼウニを食べてもらうことで駆除が進み、その利益が海藻の再生や資源の回復につながります。
一つでも二つでもいいので、食べることで海を守る取り組みに参加してほしいと思っています。食べれば食べるほど海はきれいになっていく。その循環を多くの人と一緒につくっていきたいです。