翻訳とITの融合で世界と日本をつなぐ――トラコムが挑む次世代の言語サービス
株式会社トラコム 代表取締役 阿部 英武氏
株式会社トラコムは、翻訳事業と情報処理事業を軸に、世界中の企業と日本をつなぐ言語サービスを展開している企業です。創業の原点は、小さな翻訳事務所から始まった個人事業でした。現在では海外企業との取引を中心に、多言語ローカリゼーションやIT関連サービスを提供しています。本記事では、代表の阿部英武氏に、事業の特徴や業界の変化、今後の展望などについて伺いました。
「翻訳」と「IT」を軸に広がる事業領域
――現在の事業内容について教えてください。
当社は、主に「翻訳事業」と「情報処理事業」の2つを柱に事業を展開しています。もともとは、私が個人翻訳者として活動していたところから始まった会社です。言語とITの両方の経験があったため、IT関連の翻訳案件を中心に仕事をしていました。活動を続けるなかでフリーランス翻訳者のネットワークが広がり、一人では受けきれない仕事もグループとして受けることができるようになった流れから2004年に法人化したんです。
現在は、当社内の社員は20名ほどですが、社外の翻訳者のネットワークとしては300名ほどの協力スタッフと契約しています。さらに関連する補助スタッフを含めると500名ほどの体制となり、多言語の翻訳案件に対応可能です。
――各事業の特徴についてお伺いできますか。
翻訳事業では、単なる翻訳ではなく「ローカリゼーション」に力を入れている点を特徴としています。例えばアメリカで作られたサービスを日本市場向けに展開する場合、直訳では文化やビジネスマナーの違いから違和感のある文章になることがあります。そこで日本の消費者の感覚に合わせて表現を調整し、自然に伝わる文章へと仕上げていくのがローカリゼーションです。
情報処理事業では、システム開発やWeb開発などを行っています。そのなかでも特徴的なのは、マークシートの解析や分析です。受験やアンケートなどで使われるマークシートは現在でも利用されており、こうしたデータを解析する仕事は長年続いている事業の一つです。
また、翻訳事業と情報処理事業が連携する場面もあります。翻訳案件のなかでWeb開発やシステム開発が必要になった場合には情報処理部門が対応するなど、両部門が補完し合いながらサービスを提供している点が当社の特徴です。
――お客様はどういった方が多いのでしょうか。
当社のお客様の多くは海外企業で、特にITやソフトウェア関連企業との取引が中心です。守秘義務の関係で具体的な企業名を挙げることはできませんが、世界的なIT企業やその関連企業と取引があり、スマートフォンやパソコンなどで一般のユーザーが利用しているサービスのなかにも、当社が翻訳やローカリゼーションを担当したものが含まれている可能性があります。
AI時代に変化する翻訳業界
――翻訳業界の変化についてはどのようにお考えですか。
ここ20年ほどで、翻訳業界は大きく変化したように感じています。当社でも、創業当初はプログラマー向けの技術マニュアルや開発者向け文書の翻訳が中心でした。サーバーのマニュアルなどは非常に分厚く、それらを一つひとつ翻訳する必要がありましたが、当時はインターネットの通信速度も今ほど速くなく、データのやり取りにも時間がかかる時代でした。
その後、インターネットの普及とともに翻訳内容も変化し、現在ではWebマーケティング関連の翻訳が増えています。広告主向けの説明や一般ユーザー向けのコンテンツなど、マーケティングに関わる翻訳が主流になってきました。
――AI翻訳の進化は業界にどのような影響を与えていますか。
近年は機械翻訳やAI翻訳の進化が非常に速く、翻訳業界にも大きな影響を与えています。以前は機械翻訳の精度が低く、誤訳も多かったため、あまり実用的ではありませんでしたが、ここ数年で精度が大きく向上し、現在では一定の分野で機械翻訳が活用されています。
そのため、機械翻訳の結果を人間がチェックして仕上げる「MTPE(Machine Translation Post Editing:機械翻訳ポストエディット)」と呼ばれる作業も増えています。一方でマーケティング翻訳や法律、医療などの専門分野では、依然として人間の翻訳者の役割が重要です。そのため、今後はAIと人間の翻訳者が役割を分担をしながら新しい翻訳サービスの形が生まれていくのではないかと予想しています。
日本の魅力を、世界へ
――今後注力していく事業について教えてください。
現在当社では、新たに3つの分野への取り組みを進めています。1つ目は、「外国人研修サポート事業」です。日本では人口減少が進み、今後は外国人労働者の受け入れがさらに増えていくと考えられます。農業や建設業、介護などの分野では人手不足が深刻であり、外国人材の活用が重要になってくるでしょう。そういった状況のなかで、言語の専門企業として研修や教育のサポートを行えるよう仕組みづくりを進めています。
2つ目は、「通訳事業」です。訪日外国人が増える今、地方の店舗や企業でも言語対応のニーズが高まっています。そこで当社では、スマートフォンなどを通じて通訳サポートができる仕組みを構想しています。
3つ目は、「海外市場調査事業」です。日本企業が海外市場へ進出する際には、現地の市場環境や規制、消費者動向などの情報が必要になります。当社は世界中にネットワークを持っているため、現地での調査や情報収集をサポートすることが可能です。これまで培ってきた言語ネットワークを活かし、日本企業の海外展開を支援していきたいと考えています。
――社会に対してどのような価値を提供していきたいですか。
日本には多くの魅力があるにもかかわらず、それが十分に世界へ伝わっていないと感じています。食文化やサービスの細やかさなど、日本人にとって当たり前のことが海外の人にとっては非常に価値のあるものです。
そうした日本の魅力を世界に伝えることは、言語サービスを提供する企業として大きな役割だと思っています。翻訳や通訳、市場調査などを通じて、日本と世界をつなぐ橋渡しのような存在になれればと考えています。
思い切って挑戦しよう
――最後に、これから起業を目指す方へメッセージをお願いします。
起業において大切だと思っているのは、「Fake it till you make it(日本語訳:成功するまで、成功しているふりをしろ)」という考え方です。これは実現するまではある程度背伸びをして挑戦するという意味です。もちろん無理な約束はできませんが、努力すれば届く範囲であれば思い切って挑戦することも必要です。
最初から完璧を目指していると、なかなか一歩を踏み出すことができません。少し背伸びをしてチャンスをつかみ、その機会を全力でやり切る。その積み重ねが事業の成長につながるのだと思います。
専門分野の技術や経験がある方であれば、誰にでもチャンスはあると思います。恐れずに挑戦してほしいですね。言語や海外展開に関することで困っていることがあれば、ぜひ気軽に相談していただければと思います。