印刷の枠を超え、社会課題に向き合う──環境とデジタルで価値を生む挑戦
株式会社大川印刷 代表取締役社長 大川哲郎 氏
印刷業を基盤としながら、環境印刷やデジタルアーカイブといった新たな分野に挑戦を続ける株式会社大川印刷。本記事では、再生可能エネルギーを活用した独自の取り組みや、社会課題への向き合い方について、大川哲郎氏に伺いました。
印刷からデジタルまで一貫して担う、独自の事業展開
――現在の事業内容について教えてください。
もともとは総合印刷業として、印刷全般、特にセット印刷を中心に事業を行ってきました。そこから2004年頃をきっかけに、環境印刷という分野に力を入れてきています。
当社の特徴は、再生可能エネルギー100%で印刷を行っている点にあります。自社の設備と風力発電を組み合わせることで、印刷工程における電力由来のCO2排出を抑えています。企業がサプライチェーン全体のCO2排出量を開示する流れの中で、印刷物もその対象になります。そこで当社の印刷を利用いただくことで、環境負荷の低減につながるという価値を提供しています。
さらに、ペーパーレス化やデジタル化にも対応しており、デザインから印刷、そしてデジタル化まで一貫して手がけています。単に紙からデータへ変換するだけでなく、そのデータをAIなどで活用できる形にするところまで視野に入れている点が特徴です。
印刷という仕事は「紙に情報を載せること」が役割でしたが、時代の変化とともに、その役割も広がってきていると感じています。紙で届けるべき情報と、デジタルで活用すべき情報。その両方を見極めながら、お客様にとって最適な形を提案していくことが、これからの印刷会社のあり方だと考えています。単なる製造ではなく、情報の価値をどう届けるか。その視点を大切にしながら事業を進めています。
家業を継ぎ、社会課題と向き合う経営へ
――経営者になられたきっかけを教えてください。
家業を継ぐ形でこの仕事に入りました。19歳のときに父が亡くなり、その後は母が社長を務めていました。そこから10年以上を経て、36歳で私が引き継ぐことになりました。
社長になってからは長い時間が経ちましたが、考え方は大きく変わってきたと感じています。若い頃は売上や利益を重視していましたが、今はそれだけではない価値を大切にしています。社員が誇りを持てるかどうか、会社としてどんな存在意義を創り出せているかを重視するようになりました。
自分自身の経験から、社会には理不尽な思いをしている人が少なくないと感じています。そうした背景もあり、本業を通じて少しでも社会課題の改善に関われないかという思いが強くなりました。印刷という事業を軸にしながらも、社会に対してどんな貢献ができるのかを常に考えています。
経営という立場になると、目の前の数字だけを追いかけることをしがちですが、それでは長く続く会社にはならないと感じています。何のためにこの会社が存在しているのか、誰の役に立っているのか。そうした問いを自分の中で持ち続けることが、結果として会社の方向性を決めていくのだと思います。過去の出来事も含めて、今の自分の考え方につながっていると感じています。
小さな顧客との積み重ねと、組織の課題
――組織運営や現在の課題について教えてください。
現在の従業員数は33名程度で、営業担当は少人数です。新しいメンバーも加わりつつありますが、まだ体制としては十分とは言えません。
当社の特徴として、新規開拓を積極的に行っているわけではない中で、3年間で約500社のお客様が増えました。ただ、その多くは小規模なお取引です。結果として顧客数は増えていますが、売上としてはまだ伸びしろがある状況です。
環境印刷やデジタルアーカイブといった分野は、まだ社会や顧客の理解が十分とは言えません。必要性は感じられているものの、具体的な活用や価値の認識がこれから広がっていく段階だと思っています。自社だけでなく、顧客や社会全体の課題として向き合う必要があると感じています。
営業面についても、単純に人数を増やせば解決する問題ではないと考えています。新しい価値を伝えていくには、相手の理解や共感が不可欠です。だからこそ、時間をかけて関係性を築いていくことが重要になります。すぐに大きな成果につながらないこともありますが、その積み重ねが将来的な信頼につながると捉えています。組織としても、そうした考え方を共有しながら進めていきたいと思っています。
デジタルアーカイブと地域への広がり
――今後の展望について教えてください。
現在はデジタルアーカイブの分野に力を入れています。建設・建築業のお客様では図面のデジタル化のニーズが多く、まずは保管スペースの削減という目的で導入されています。ただ、その先のデータ活用については、まだ模索している段階です。
今後は、単なるデジタル化にとどまらず、データをどう活かすかに取り組んでいきたいと考えています。地域にある資料や資産をデジタル化し、それを街づくりや地域創生に活かすような取り組みにも関わっていきたいです。
売上については大きな目標を掲げるというよりも、着実に成長できればと考えています。一方で、社員や関わる人たちの幸福度は、より高めていきたいと思っています。数字だけでは測れない価値を大切にしたいという考えです。
デジタルアーカイブはまだ分かりにくい分野ですが、その可能性は大きいと感じています。蓄積された情報をただ保存するだけでなく、必要なときに活用できる状態にすることが重要です。地域や企業が持つ資産を次の世代へつないでいく役割も担えるのではないかと考えています。その中で、自分たちにできることを一つずつ形にしていきたいと思っています。
音楽と運動、そして仕事につながる時間
――リフレッシュ方法について教えてください。
音楽が好きで、ギターの演奏を楽しんでいます。練習として弾く時間もありますし、社長同士でバンドを組んで活動することもあります。社会貢献の一環としてコンサートを行うこともあり、仕事とのつながりも感じられる時間になっています。
もう一つはスポーツクラブでの運動です。筋力トレーニングやエアロバイクなど、有酸素運動を中心に体を動かしています。日常の中でリズムを整えるための大切な時間になっています。
音楽の活動は単なる趣味にとどまらず、人とのつながりを広げるきっかけにもなっています。同じ志を持つ経営者同士で交流することで、新しい気づきが生まれることもあります。そうした時間が結果として仕事にも良い影響を与えていると感じています。
――最後に、これから起業される方や経営者の方へメッセージをお願いします。
若い頃は売上やお金を重視していましたが、今はそれ以上に大切なものがあると感じています。社員にとって誇りを持てる会社であること、社会に対してどんな価値を提供していくべきか?を考えることが重要だと思っています。
やり方や売上の伸ばし方だけを追い求めるのではなく、会社のあり方や業界、社会との関係をしっかりと見つめることが大切です。そうした積み重ねが、結果として会社の価値を高めていくのだと考えています。
これからも、自分たちの事業を通じて社会課題の改善に向き合いながら、誇りを持てる仕事を積み重ねていきたいと思います。