人を傷つけない笑いを社会へ――「笑い教育」で未来を変える挑戦
一般社団法人笑ってMe 代表 小幡 七海氏
「笑い」は本来、人を幸せにするもの。しかしその一方で、何気ない一言が誰かを傷つけてしまうこともあります。一般社団法人笑ってMeは、「人を傷つけない笑い」を教材として学校や企業に届ける、独自の教育活動を展開しています。代表の小幡七海氏は元小学校教員。教育現場での実体験を原点に、笑いの在り方を問い直す取り組みを続けています。現在は年間約100件の講演や研修を実施しながら、将来的には義務教育に「笑い」の授業を取り入れることを目標に掲げています。その思いや背景について伺いました。
目次
日常のコミュニケーションに潜む「笑い」を見つめ直す
――現在の事業内容について教えてください。
人を傷つけない笑いを教材にして、学校や企業に授業や研修として届けています。私たちは、お笑いには「いい笑い」と「悪い笑い」があると考えています。笑いも言葉づかいの一つです。その言葉づかいは本当に相手にとって心地よいものなのか、ということを問いかける教育事業を行っています。
最終的な大きな目標は、学校の義務教育の中に「笑い」という教材を入れることです。笑いを通じて、相手を思いやる力や言葉の影響力について学ぶ時間をつくりたいと考えています。
――他の研修との違いや強みはどこにありますか。
よく「笑いについて考えたことがなかった」と言っていただきます。お笑いと聞くと、エンターテインメントとしての世界を思い浮かべる方が多いと思います。しかし私たちが扱うのは、日常のコミュニケーションの中で使われる笑いです。
例えば、上司と部下の関係でのいじりやからかい。学校での子ども同士の何気ない一言。本人は面白いと思っていても、相手は傷ついているかもしれません。そうした「無自覚な笑い」に目を向け、考える場を提供していることが特徴です。エンタメではなく、日常に根ざした笑いを扱っている点が私たちの強みだと思っています。
教員時代の疑問が原点に
――この活動を始めたきっかけを教えてください。
私は元小学校教員です。クラスの中で、いじりやからかいの笑いが当たり前のように交わされている場面を何度も見てきました。子どもたちだけでなく、大人同士でも同じようなやり取りがありました。
それを見たとき、「これは本当に笑いなのだろうか」と疑問を持ったのが始まりです。人を傷つける笑いは簡単に使えてしまいます。だからこそ、学ぶ必要があるのではないかと思いました。もし学校の授業に「笑い」があれば、もっと違うコミュニケーションが広がるのではないか。そう考え、教員を辞めて現在の活動に取り組んでいます。
――落語との出会いも影響していますか。
大学時代に落語と出会いました。お笑いに触れられる場を探していて、唯一あったのが落語のサークルでした。そこで落語の面白さにのめり込み、学生時代には落語の大会で優勝も経験しました。
落語には、基本的に人を傷つけない笑いがあります。物語の中で言葉遊びやオチの工夫があり、聞いていて心がざわざわしない。約400年続いているのは、そうした心地よさがあるからではないかと感じています。
授業ではまず落語を体験してもらい、「こういう笑いがあるんだ」と感じてもらいます。その上で、人が嫌な思いをしない笑いを自分たちで作ってみるワークを行います。中高生には漫才や落語を実際に考えてもらうこともあります。先生向け研修では、クラスでいじりの笑いが起きたときにどう対応するかを話し合うなど、気づきの場をつくっています。
意識が変わる瞬間に立ち会う
――印象に残っているエピソードはありますか。
ある中学生が感想に「僕は傷つける笑いを使っていました。でも今回の講演を聞いて、このまま続けていたらダメな大人になっていました」と書いてくれました。その言葉はとても印象に残っています。
ほかにも、「クラスの雰囲気が変わった」「先生同士も言葉づかいを意識するようになった」という声をいただきます。少しでも意識が変わるきっかけになっているのだと感じています。
「事務所」のような組織を目指して
――現在の体制について教えてください。
代表の私と役員が2名、ほかに講師や業務委託のメンバーを含めて約10名ほどです。基本的には個々で現場に向かい、依頼に応じて講師を派遣する形を取っています。
イメージとしては、芸能事務所のように「笑い教育」を行う講師を派遣する組織にしたいと考えています。依頼があれば、地域の講師が担当する。そうした仕組みを整えていきたいです。
――どのような方と一緒に働きたいと考えていますか。
自分が輝くよりも、誰かが輝いている姿を見て楽しめる人です。自分が笑わせることが目的ではなく、子どもたちや受講者がつくる笑いを温かく見守り、その場をつくることを喜べる人。
そして、本気で「人を傷つけない笑いは大事だ」と思っている人と一緒に取り組みたいです。ただお笑いが好き、教育が好きというだけでは難しい仕事です。思いに共感してくれる仲間を増やしていきたいと思っています。
10年後、学校に「笑い」の授業を
――今後の展望を教えてください。
今後3〜5年で、笑い教育の授業ができる講師を増やしたいと考えています。そして10年後には、学校の授業に当たり前のように笑いが入っている状態をつくりたいです。
お笑いというと意外に思われるかもしれませんが、実際には道徳の授業に近い部分があります。相手を思いやること、言葉の力を知ること。それを「笑い」という教材で学ぶ時間にしたいのです。
簡単に広がる活動ではありません。大きな利益が出る仕事でもないかもしれません。それでも、思いに共感してくださる方々の輪の中で、少しずつ広げていきたいと考えています。
世界へ広げる「人を傷つけない笑い」
――経営以外で情熱を注いでいることはありますか。
現在、スペインに住むことを予定しており、文化を学びながら生活してみようと考えています。そこで将来的には、スペイン語で落語を披露し、スペインや南米を回りたいという構想もあります。
テーマは「人を傷つけない落語」。日本のお笑い文化の一つとして、相手を思いやる笑いを海外にも伝えたいと考えています。世界の笑いと日本の笑いを比較しながら、その違いも発信していけたら面白いと思っています。
やりたいことを突き詰める
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
やりたいことを突き詰めていくと、ビジネスになると思っています。ただやりたいだけではなく、徹底的に向き合うことで道が見えてくる。
私自身、「笑いを義務教育に入れたい」という思いを突き詰めています。簡単なことではありませんが、思いを持ち続け、行動し続けることで形になっていくと信じています。
人を傷つけない笑いが当たり前になる社会を目指して、これからも挑戦を続けていきます。