AI時代のリスクに挑む――元警察官の知見で企業を守る新たな経営支援のかたち
一般社団法人日本刑事技術協会 代表理事 森 透匡氏
企業経営において、不正やトラブルは避けて通れないリスクの一つです。そうした課題に対し、元警察官という異色の経歴を持つ専門家集団として支援を行っているのが一般社団法人日本刑事技術協会です。詐欺や横領といった知能犯罪への対応や、企業内のリスク管理において独自の強みを発揮しています。本記事では、代表理事の森透匡氏に、事業の特徴や創業の背景、今後の展望について伺いました。
元警察官の知見を企業の課題解決へ
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
大きな柱は「企業顧問」と「教育事業」の2つです。顧問として企業の経営課題をサポートする一方で、講演や研修といった形で知識やスキルを提供しています。コンセプトは、刑事の技術を世の中に役立てることです。
当協会には約25名のメンバーが在籍しており、全員が元警察官です。刑事経験者も多く、詐欺や横領といった知能犯罪の分野に強みがあります。企業内で発生するトラブルの多くはこうした知能犯罪であり、そこに専門的に対応できる点が特徴です。
経営者の課題は多岐にわたりますが、特にリスク管理や不正対応においては、従来の相談先だけでは十分でないケースもあります。そうした場面で、具体的な解決策を提示し、実務レベルで支援できる存在であることを目指しています。
――他社にはない強みはどのような点にありますか。
警察と民間、両方の実情を理解している点です。警察は建前に基づいて対応するため、相談しても受け付けてもらえないケースがあります。そのような場合でも、どうすれば受理されるのか、どのように進めるべきかを具体的にアドバイスできます。
また、不正調査におけるヒアリングや取り調べの技術も強みです。一般的には聞き取りの方法が分からず、十分な情報を引き出せないことが多いですが、当協会ではその技術を提供しています。実際に現場に同行し、聞き方の指導や実践を行うこともあります。これは民間ではなかなか提供できない領域です。
震災をきっかけに踏み出した経営の道
――経営者になられたきっかけを教えてください。
きっかけは2011年の震災です。当時はまだ警察官として勤務しており、災害時の救出部隊の中隊長を務めていました。その経験を通じて、「生きているうちに挑戦することの価値」を強く感じ、独立を決意しました。
もともと独立志向はありましたが、震災が背中を押してくれた形です。警察で培った経験が民間でも通用するのではないかと考え、挑戦する道を選びました。現在は独立して14年になります。
――現在の事業に至るまでの変遷を教えてください。
独立当初は、嘘を見抜く技術をテーマにした講演やコンサルティングからスタートしました。取り調べ経験をもとに体系化したこのスキルは、他に教えている人がほとんどいない分野です。
全国で講演を重ねる中でニーズが広がり、現在では150回以上の講演や研修を行っています。その過程で仲間も増え、より多様な支援が可能になりました。そこから協会を立ち上げ、顧問業や調査支援など、現在の形へと発展してきました。
“任せる”組織運営と広がる役割
――組織運営で意識していることは何ですか。
当協会のメンバーは、それぞれ本業を持ちながら活動しています。いわば専門家が集まるプラットフォームのような形です。そのため、個々の専門性を活かしつつ、仕事をどう分配していくかが重要になります。
課題としては、代表である自分に仕事が集中しやすい点があります。講演や実績の関係で依頼が集まりやすいのですが、それをいかにメンバーへ広げていくかが重要です。より多くの機会を提供し、組織として成長していく必要があります。
――現在の営業方法について教えてください。
主な営業は講演です。全国の経営者向けの会合で講演を行うことで、直接ターゲットに価値を伝えています。講演そのものが営業の役割を果たしており、その後の相談や顧問契約につながるケースが多いです。
また、メールマガジンも重要な手段です。約7000人の経営者や幹部に向けて週に複数回発信しており、継続的な関係構築につながっています。さらに、ホームページ経由での問い合わせも多く、安定した集客基盤となっています。
全国へ広げる“警察OB顧問”という新しい価値
――今後の展望について教えてください。
今後は、警察OBが企業顧問として関わる仕組みを全国に広げていきたいと考えています。弁護士顧問は一般的ですが、警察OBの顧問はまだ少ないのが現状です。この両者が揃うことで、企業のリスク対応力は大きく向上します。
また、警察官のセカンドキャリアの場を広げることも重要なテーマです。従来は限られた選択肢しかないと言われてきましたが、実際には社会に貢献できる可能性は大きいと感じています。その価値を示し、より多くの人に新たな道を提示していきたいです。
さらに、不正調査の分野にも注力していく予定です。特に保険金の不正請求などは見抜くのが難しく、専門的な調査が求められています。この分野でも当協会の技術を活かせると考えています。
――最終的にどのような組織を目指していますか。
規模を無理に拡大するのではなく、質の高い専門家集団として確立したいと考えています。人数は30〜40名程度を想定していますが、それ以上に重要なのは、経営者から信頼される存在であることです。
元警察官の知見を活かし、唯一無二の組織として社会に価値を提供し続けること。それが目指す姿です。
――読者へのメッセージをお願いします。
経営にはさまざまな課題がありますが、「誰に相談すればよいか分からない」というケースも多いと思います。そうしたときに思い出していただける存在でありたいと考えています。
普段は問題がないことが一番ですが、いざというときに頼れる選択肢として、当協会の存在を頭の片隅に置いていただければと思います。