企む力でちがいを価値に変える ブランディングの挑戦
株式会社BOU 代表取締役 冨澤 智理氏
株式会社BOUは、法人向けのブランディングやPR戦略の立案、メディアコンテンツの企画・制作までを一貫して手がける会社です。単に何かを「つくる」ことを目的にするのではなく、その前段階にある企みや設計を重視し、企業の中にある「伝わらない」を「伝わるカタチ」に変えていくことを掲げています。今回は代表の冨澤智理氏に、事業の考え方や起業の背景、組織運営で大切にしていること、そして今後の展望について伺いました。
選ばれるための企む力
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
弊社は、企業や経営者の「違い」を言語化し、ブランドとして伝わる形にするブランディング会社です。事業戦略の整理から関わり、その会社が「どう見られるべきか」を設計した上で、ブランディング・PR・マーケティングまで一貫して支援しています。具体的には、事業や経営者に対して問いを立てながら、思想や意図を整理し、コンセプトやポジショニングへと落とし込む。その上で、メディアコンテンツの企画や制作ディレクションまでを一本で担うことで、伝え方にブレが出ない状態をつくっています。
現在は法人向け支援に加えて、経営者個人のブランディング支援も展開しています。
AIの進化によってアウトプットの差別化が難しくなる中で、「誰が、どんな意思でやっているのか」がより重要になっているためです。経営者の考えや意思決定の背景を言語化し、信頼として伝わる形にする支援を行っています。
――理念やビジョンに込めている思いを教えてください。
弊社では「つくる前に企む “ちがう”をそのままブランドに 伝わらないを伝わるカタチへ」というコピーを掲げています。あらゆる制作の依頼を多くいただきますが、何を、どう伝えるか、そのために何を作るか、を考えることは経営にとても直結します。経営に直結するからこそ、キャッチコピーにもあるように「つくる前に企む」を大切にしています。
ビジョンとしては「ちがうが選ばれる理由になる世界を」としています。他社より何が優れているかを並べるのではなく、その企業ならではの違いこそが、選ばれる理由になる世界をつくりたいという思いがあります。
――業界内での強みはどのような点にありますか。
弊社の強みは事業戦略の部分から関わっていけることで、戦略が強いと、作る、運用するという視点が削れてしまいますが、そこを全て網羅できます。そして業界には各プロフェッショナルがいますが、弊社ではそこを分けずに組み込める、必要な手段を全て講じることができます。
全部できます、ではなく、“どこで迷っていてもここから一緒に考えられます”というのが強みだと思います。
すれ違いを価値に変えた挑戦
――経営者になられた経緯を教えてください。
私はもともとは不動産業界におり、20代は賃貸や売買などを扱っていました。その後、不動産コンサルティングの領域に移り、権利調整や相続、開発に向けた整理など、目に見える建物ができる前段階の仕事に携わってきました。
転機になったのは、渋谷のクリエイティブ企業から新規事業立ち上げのオファーを受けたことでした。その会社はクリエイター派遣を行う会社でして、そこで新規事業に関わりながら、エンジニアやデザイナー、コーダーやエディターなどクリエイターを雇用し、社内教育をかけて、企業のプロジェクトに参画させるモデルを採用している会社でした。その中で、企業側とクリエイター側の間に、取引以前のミスコミュニケーションが数多く存在していることに気づきました。企業側は必要な人材像をうまく言語化できず、クリエイター側も自分の価値を適切に伝えきれていない。その結果、本来起きなくてよい行き違いが生まれ、プロジェクトがうまく進まない場面を何度も見てきました。そこに大きなもったいなさを感じました。
また、未経験のクリエイターがキャリアを築いていく難しさにも直面しました。そこで、私の立ち振る舞いによって、この人たちのキャリアが変わるんだと気づきました。実務年数だけではなく実力ベースで判断してもらう流れをつくり、企業と人材の間に入って伝え方を変えました。プロジェクトのメンバーとして相応しいかどうかを私のプレゼンを通して判断していただき、問題がなければ面談をしコミュニケーション能力の部分を見ていただく。この流れにしたことでキャリアの壁を私が変えられると。そうした経験を通じて、相反する立場同士のミスコミュニケーションをなくしたいという思いが、起業の出発点になりました。
――仕事をする上で大切にしている価値観は何でしょうか。
「差別化」ではなく「差異化(さいか)」という価値観を大切にしています。
他社と比較して優位を競う「差別化」は、結局は価格や機能の消耗戦になりがちです。対して「差異化」は、他社がいなくても成立する「自分たちだけの独自性」に光を当てる考え方。他者との違いをピックアップするのではなく、その会社が大事にしていることや、会社自身の“色”を見つけて言語化することを大切にしています。
あと「お客様が主語かどうか」という視点です。立場が変われば正義も変わるからこそ、起点に立ち返るために、この問いを判断基準として置いています。また、この判断基準は自社のお客様にとどまらず、「お客様のお客様」を見る視点も見越し、大切にしています。
そしてもう一つ、弊社らしさとしての軸として「前提を疑う」ことも大切にしています。提示された課題をそのまま受け取るのではなく、なぜそれを課題だと認識しているのか、他に見落としている論点はないのかを考える。この視点があるからこそ、同じ失敗を繰り返さない支援につながると考えています。
――組織運営で意識していることを教えてください。
現在、会社としては私を含む2名体制で、業務委託やアライアンス先とも連携しながら事業を進めています。そうした中で意識しているのが、「ポジションに合わせた視点のスイッチを持つこと」です。経営者という立場に立つと、どうしても経営視点で物事を見てしまいます。しかし、その正義だけで話しても分かり合えない場面があるため、相手のポジションの視点を考えることを常に意識しています。
経営者の物語を価値に
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
今後の大きな取り組みとしては、経営者向けのブランディング支援です。AIの活用が進むことで、一定水準のアウトプットが生み出しやすくなる一方、選ぶ側にとっては違いが見えにくくなる時代が来るとみています。その中で重要になるのが、会社そのものだけでなく、その会社を率いる経営者がどんな原体験を持ち、何を変えたくて事業を行っているのかという部分です。そこを言語化し、押し出していくことで、採用やカルチャーフィット、さらには企業の見られ方にも変化が生まれると考えています。
――現在感じている課題についても教えてください。
弊社自身の「選ばれる理由」をどう伝わる形にするかという点です。じっくり話す時間があれば理解してもらえるものの、短い接点の中で無形の価値をどう伝えるかは難しさがあります。ブランディングという概念自体が受け取り方によって変わりやすく、完成した制作物だけでは、自社が担っている領域の広さや深さが伝わりきらないからです。
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
最近のリフレッシュ方法は、日光浴です。時間的には3分程度で、天気の良い日にオフィスの屋上で寝転がり、陽を浴びて風をあびて、無心になる時間をつくるようにしています。