義を持って、鋭く、美しく。あり方を研ぎ澄まし「熱狂的なファン」を生むブランドの道
株式会社流義 代表取締役 岩城博之氏
「ブランドとは、単に規模が大きいことではなく、熱狂的なファンが生まれる状態のこと」。そう定義する株式会社流義の代表、岩城博之氏は、企業の「あり方」を根底から見つめ直すブランディング・コンサルタントです。大手企業から中小企業までを渡り歩き、テクニック主体の「やり方」の限界を痛感した岩城氏が行き着いたのは、理念や哲学を言語化し、社内に浸透させるインナーブランディングの重要性でした。
「義を持って 鋭となり 美とある」という独自の理念を掲げ、武士道や書道といった日本の精神文化を経営に取り入れる岩城氏。同社が提供するのは、一過性のマーケティング施策ではなく、3年、5年という歳月をかけて企業の魂を磨き上げる伴走型の支援です。自分を律し、相手目線の「美しさ」を追求する岩城氏の経営哲学と、書を通じて経営者の想いを形にする新たな挑戦について話を伺いました。
「やり方」の限界を超え、「あり方」を基盤に据える経営
——まずは、株式会社流義の事業内容と、ブランディングに対する定義について教えてください。
私たちはブランディングのコンサルティングを主軸としており、企業が「ブランド化」するお手伝いをしています。私たちが定義するブランドとは、規模の大小や知名度の高さではありません。「熱狂的なファンが生まれるかどうか」。たったこれ一点です。たとえ1人の会社であっても、熱狂的なファンがいればそれは立派なブランドです。
具体的な支援内容は、月に一度の社内研修や社長・社員さんとの面談を通じた伴走型支援です。3年から5年という長いスパンをかけてじっくりと取り組んでいきます。特徴的なのは、外向けの「アウターブランディング」よりも、内側の「インナーブランディング」に重きを置いている点です。理念、ビジョン、哲学といったものを明確に言語化し、「自分たちはどうあるべきか」「何をしてはいけないのか」を深掘りしていく。
——「やり方」ではなく「あり方」を重視するようになったきっかけは何だったのでしょうか。
私は39歳で独立するまで、イオンやリクルートといった大手企業に15年ほど、その後中小企業を4社経験しました。当時はとにかく「やり方」、つまりどう売るか、どう見せるかというマーケティング手法ばかりを追い求めて数字を作っていました。しかし、やり方だけに頼った仕事はどこかで歯車が狂い始めます。数字だけを追う組織は疲弊し、「誰の何のために」が不明確だと、細かな心遣いや仕事の質が低下していくのです。
誰も幸せになれない状況を目の当たりにし、辿り着いたのが「あり方」の大切さでした。松下幸之助さんや稲盛和夫さん、ピーター・ドラッカーといった先人たちの教え、さらには『思考は現実化する』や『7つの習慣』などの本質を突き詰めると、すべては「あり方」に行き着きます。それは日本の神道、仏教、儒教の教典にも通じる普遍的な真理です。スキルの研修ではなく、この「あり方」から組み立てる伴走こそが、今の日本企業に必要だと確信してスタートしました。
武士道に学ぶ、己を律する「義」と「美」の精神
——御社の理念である「義を持って 鋭となり 美とある」という言葉には、どのような想いが込められていますか。
「義」とは、大義や忠義、つまり「何のために命を使うのか」という問いです。日々、本当に志のために命を燃やせているかを自分に問い続けています。「鋭」は、他者ではなく自分の内側に対して鋭くあれ、という意味です。心に嘘をついていないか、純真な心で事にあたっているか、自分を厳しく見つめます。そして「美」は外向きの姿勢です。相手目線に立っているか、その判断は優しいか、美しいか。この「美しさ」こそが、私の判断基準の根幹にあります。
——経営判断を下す際の、軸となる価値観や影響を受けたものはありますか。
私の哲学のベースにあるのは「日本の心」です。特に新渡戸稲造の『武士道』や、佐賀鍋島藩の『葉隠』からは多大な影響を受けました。勝つか負けるか、お金になるか否かという「やり方資本主義」の論理だけでは、尊い仕事はできません。あり方を大切にする会社が増えれば、社会に幸せな人が増える。そう信じています。
社内のコミュニケーションにおいても、「あり方の共有」を大切にしています。具体的には、日々の質の高い「雑談」です。「何に美しさを感じたか」「あの流行には心が動かないのはなぜか」といった価値観のすり合わせを日々行っています。採用やパートナー選びにおいても、自分を捨てて相手目線になれる人、自分に厳しく美しさを追求できる人と共に歩んでいきたいと考えています。
「書の道」で経営者の志を刻む。引き算の美学が生む新たな挑戦
——今後、新しく取り組んでいきたい挑戦や展開について教えてください。
今、改めて「道」の探求に力を入れています。茶道や華道、剣道など日本には多くの道がありますが、その中でも最も古い道の一つが「書道」です。私は毎日墨を磨り、筆を執ることで心を整えています。書道は「引き算」の芸術であり、自分を見つめ、余計なものを削ぎ落として「我を知る」トレーニングでもあります。
この「書」の力を活用して、経営者の方々の理念を書くという活動を広げていきたいと考えています。単にかっこいい字を書くのではなく、その経営者の想いや志、相手が何を求めているのかを徹底的に「相手目線」で捉えて表現する。自分を律し、日々研鑽を積んだからこそ書ける、魂のこもった書を届けていきたいですね。
——その挑戦を支える、日々のリフレッシュ方法や大切にされている時間はありますか。
私にとって、仕事とプライベートの境目はありません。四六時中、仕事のことも人生のことも考えているような感覚です。その中でも、書道は心を落ち着かせる大切な時間です。最近では妻と登山を始めました。自然に触れるというのは非常に良いリフレッシュになります。
また、最も大きな影響を受けているのは、今までのクライアントである社長さんたちです。私は自分が心からリスペクトできる方しかお客様にしません。社員の幸せを本気で願う経営者の姿から、私自身も日々多くのことを学ばせていただいています。歴史上の先人たち、そして現代を共に生きる経営者の方々と相乗効果を生み出しながら、これからも「鋭く、美しい」ブランディングの道を突き進んでいきたいと思っています。