寺院から地域の未来を紡ぐ──株式会社TERA TOURISMが挑む、新たな文化観光のかたち
株式会社TERA TOURISM 代表取締役 髙橋 英眞氏
寺院が持つ本来の価値を未来へつなぎ、地域の新たな魅力を創出する株式会社TERA TOURISM。実家である寺院を原点に、「寺院を次の100年紡ぐ」というビジョンを掲げ、新たな観光の形を築いています。本記事では、代表の髙橋英眞氏に起業の経緯や事業への想い、組織づくり、今後の展望について伺いました。
目次
寺院を次の100年へ──地域と文化をつなぐ新たな挑戦
――株式会社TERA TOURISMを立ち上げたきっかけを教えてください。
実家が大阪府河内長野市にある盛松寺ということもあり、幼い頃から地域と寺院が深く関わる姿を身近で見て育ちました。近年は、檀家制度の縮小や参拝機会の減少など、寺院を取り巻く環境が大きく変化しています。周囲の住職からも「この先、お参り自体がなくなるかもしれない」といった声を耳にするようになり、現状に危機感を抱くようになりました。
寺院はかつて盆踊りやお見合いなど、人と人がつながる地域コミュニティの場でもありました。その価値を現代に合った形で伝え直したいという想いから、実家の寺院を改修し、学びと体験をテーマにした施設として新たな取り組みをスタートしました。
この取り組みを各地へ広げ、寺院をきっかけに地域へ足を運ぶ人を増やしていきたい。そんな想いを形にするため、株式会社TERA TOURISMを立ち上げました。
――現在取り組まれている事業の特徴や、他社にはない強みについて教えてください。
一番の強みは、私自身が寺院の当事者であり、実践を重ねながら事業を進めていることです。実家の寺院で培った経験を生かし、その実践を各地へ展開しています。現場で課題と向き合いながら積み上げてきた知見があるからこそ、お伝えできることがあります。
また、地域全体を巻き込みながら事業を進めていることも、私たちならではの特徴です。寺院だけで完結するのではなく、地域の皆さんをはじめ、鉄道や空港など地域インフラを担う方々とも力を合わせながら取り組みを進めています。それぞれの強みを持ち寄り、新たな価値を共につくり上げていきたいと思っています。
「もったいない」を価値へ──変わらない経営の原点
――経営者の道に進まれたきっかけを教えてください。
学生時代は、シロアリの研究に取り組んでいました。一般的には害虫という印象が強い存在ですが、木材を分解する能力を森林資源の活用に生かせるのではないかという視点から研究を続けていました。
振り返ると、その頃から一貫して向き合ってきたのは「もったいないをなくす」というテーマです。価値があるにもかかわらず、マイナスの印象ばかりが先行してしまうものの魅力を伝えたい。その想いは、寺院にも共通していました。
地域とともに取り組みを広げるには、継続して事業を進められる体制や資金調達も必要になります。自分の目指すことを実現するには、経営者という立場で事業を前へ進めるのが一番だと思い、起業という道を選びました。
――経営判断の軸となっている価値観を教えてください。
私が大切にしているのは、「愛の輪を拡張していく」という考え方です。寺院だけで完結するのではなく、地域の皆さんや地元企業、交通インフラを担う方々など、多くの方と力を合わせながら地域を盛り上げていきたいと思っています。
地域には、まだ知られていない魅力があります。それぞれの視点を持ち寄り、一緒に発信していくことが大切です。そして、一人で進むのではなく、みんなで遠くまで歩んでいく。そんな姿勢を、経営判断の軸としています。
地域を支えるのは、人の力──本音で向き合う組織づくり
――組織運営で大切にしていることを教えてください。
一番意識しているのは、本音で意見を言い合える環境をつくることです。最終判断は経営者の責任ですが、その過程ではメンバー一人ひとりの考えを聞くよう心がけています。
一人だけの視点では限界があります。多様な経験や価値観を持つメンバーが率直に意見を交わすことで、新しい気づきやより良い判断につながります。だからこそ、本音を伝え合える関係性を築いていきたいです。
――どのような人と一緒に働きたいと考えていますか。
一緒に働きたいのは、「自分の地域を盛り上げたい」という想いを持っている方です。今後はさまざまな地域で事業を展開していきますが、その土地だからこそ気づける魅力や課題があります。そうした視点が地域に根差した活動には欠かせません。
もちろん専門知識も必要ですが、それ以上に地域への想いを持っていることを重視しています。「寺院を次の100年紡ぐ」というビジョンや、文化振興のパートナーでありたいという考えに共感し、ともに地域の未来をつくっていける方と歩んでいきたいですね。
寺院をきっかけに、人と地域がつながる未来へ
――今後挑戦していきたいことを教えてください。
まずは、実家の寺院で積み重ねてきた取り組みを1つのモデルとして、全国のさまざまな地域へ広げていきたいです。
さらに挑戦したいのが、宿坊の運営です。現在は体験コンテンツを中心に展開していますが、「泊まってみたい」という声をいただく機会も増えてきました。宿泊を含めた滞在を通して、その土地ならではの魅力を深く感じてもらいたいですね。寺院をきっかけに、地域へ足を運んでもらえる仕組みを目指しています。
加えて力を入れていきたいのが、企業向けの体験プログラムです。寺院という非日常の空間を生かし、盛松寺のお香作り体験を企業研修や福利厚生の一環として提供していきたいと考えています。日常を離れた静かな環境で手を動かし、香りに向き合う時間は、心を落ち着ける貴重な機会になります。
特に、部署間やグループ会社間のコミュニケーション創出につながる場としても活用いただけると考えています。役職や部署の垣根を越え、同じ体験を共有することで、自然と会話が生まれ、新たなつながりが育まれていきます。寺院ならではの落ち着いた空間だからこそ実現できる、非日常のコミュニケーションの形を提案していきたいです。
――今後の課題についてはどのように考えていますか。
地域パートナーの皆さんから共感をいただく機会は少しずつ増えてきました。ただ、その期待に応え、事業として継続していくためには、私たち自身がさらに実務経験を積んでいく必要があります。
構想や協力者とのつながりは着実に広がっています。だからこそ、1つひとつの取り組みを形にしながら実績を積み重ねていくことが、今の私たちに求められていることだと思っています。その先に、地域や寺院の未来につながる取り組みが広がっていけばうれしいですね。
音楽と旅が育む、未来を描く感性
――尊敬する人物や、影響を受けたものを教えてください。
影響を受けているのは、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴さんです。幼い頃から挑戦を続ける姿勢や、歌詞で感情を言葉にする表現力に強く惹かれています。普段から音楽を聴くことも多く、事業を進める中で励まされる存在です。
ライブ演出からは、「価値を届け、喜んで帰ってもらう」という姿勢を感じています。私たちも寺院を舞台に癒やしの時間を提供しているので、業界は違っても、本質は共通していると思います。
――休日やリフレッシュ方法を教えてください。
休日は友人と食事に出かけたり、まだ訪れたことのない地域を旅したりして過ごすことが多いですね。新しい土地を訪れ、その土地ならではの文化に触れる時間は、自分にとって貴重なリフレッシュになっています。
もう1つ欠かせないのが音楽です。何も考えずに音楽を聴いたり、ライブ映像を観ながら世界観に浸ったりすることで自然と気持ちが切り替わります。そうした時間が新たな発想を生み出し、日々の事業へ向き合う活力にもつながっています。